第9章 絡まる恋糸
「あの、ごめんなさいイヤミさん。やっぱり…」
ゆめ美がやんわり断ろうとすると、逃すまいとイヤミは会話を被せる。
「分かったザンス!ならば当店自慢のカップルセット定価五千円を、負けに負けて千円で提供するザンス!」
おそ松は首を縦に振らない。
「えーーたかーーい。タダなら入ってやってもいーよ」
「何たる図々しさ!?」
「だって言うじゃん?タダより高いモンはないって」
「値切ってる自分で言ってどうするザンス!!うぅ…ならば…」
こんなにしつこいのは何を隠そう、経営破綻寸前だからである。追い詰められた中年の本気が若い二人に襲いかかる。
イヤミは五本の指をビシィとおそ松へ向けた。
「ならば!ワンコイン五百円でどうザンス!?」
「ワンコインで一円ならいーけど」
「ど、どこまでも意地汚いヤツザンス…」
一歩も退かないおそ松に、イヤミがとうとう諦めかけた時、
「ねぇおそ松くん」
救いの手が差し伸べられた。
あまりの必死さに、お人好しなゆめ美はイヤミが不憫に思えてきたのだ。