第9章 絡まる恋糸
「おデートのネタが尽きた二人にピッタリな店ザンスよ!ムード満点!会話も満開!」
手を揉みながらニタニタと出っ歯を光らせて笑うイヤミを見てゆめ美は思った。なんて胡散臭くて卑しいのだろう、と。
「悪いけど、俺らこれからチャーハン食いに行くんだよ。じゃ」
「ま、待つザンス!!あそこはやめといた方がいいザンス!この間、ミーの食べていたラーメンにオッさんの靴下が入ってたザンス!」
「んなわけねーだろ!行こうぜゆめ美ちゃん。こーゆーダメな大人とは極力関わっちゃダメよ?」
「おそ松!まだ話は終わってないザンスー!!」
通り過ぎようとした背中を声が引き止める。
おそ松の言う通り関わらないのが一番なのだが、同じく飲食店で働くゆめ美は少しこの店に興味が湧いてきた。
「おそ松くんちょっと待って。イヤミさん、オーガニックってどこのコーヒー豆使ってるんですか?契約農家とか?」
「な、何ザンス?そんなの企業ヒミツザンス!言葉にせず味で語るのがウチのモットーザンス!」
「はぁ」と間の抜けた返事をすると、その横でおそ松が声を上げて笑った。
「ほらな?なんか嘘っぽーい」
「シェーーッ!!さっきからチミ失礼千万ザンス!!」
俗に言うシェーのポーズを初めて見たゆめ美はまたしても思った。なんて胡散臭くて卑しい中年の出っ歯さんなのだろう、と。