第9章 絡まる恋糸
駅に向かい歩き始めたその拍子、前方から聞き覚えのあるダミ声が聴こえてきた。
「いらっしゃいザンスー。当店は身体にいい、自然に優しい、オーガニックスタイルザンスよー」
パリッとした白シャツに黒いカフェエプロンとズボンを履いた、顔見知りの出っ歯が客引きをしている。
揉み手でニタニタと必要以上に笑うイヤミを見て、ゆめ美はなんて胡散臭いんだろうと心底思った。
警戒するゆめ美の横で、さほど興味なさげにおそ松が声をかけた。
「イヤミじゃん。何してんのー?」
「何してるって…。見れば分かるザンショ?呼び込みザンス!上をよく見ろザンス!」
言われて二人は顔を上げた。
上を見れば、サンシェード(日よけ・雨よけの屋根)に"AKATSUKA CAFE"という字を発見した。
「アカツカカフェ?へーぇ、お前いつの間に喫茶店なんて始めたの?ハリボテじゃねーよな?」
「失礼なヤツザンスね!ん?チミはこの間の娘!」
狐みたいに目を細めながら、ジロジロと舐めるように頭からつま先までゆめ美を見るイヤミ。
「こ、こんにちはイヤミさん」
「ウッヒョヒョー!二人して仲良くおデートザンスか?こんな未来のない一松をヒモにしたって、良いことなんか一つも無いザンスよ!」
「お前ねぇ、何年つるんでんだよ?おそ松だっての。で、ヒモはまだ予備軍」
「おそ松くん、それは聞き捨てならないんだけど」
「だはははっ!冗談だっての!」
あまり冗談に聞こえないから困ったものだ。