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【YOI・男主】Stay Gold

第2章 ダスヴィダーニャ!涙の引退宣言!


「ありがとう。なんか、スッキリしたよ。このまま日本に帰ってたら、きっともっと後悔してたと思う。ヴィクトルに声をかけてもらってよかった。これで、ちゃんと、向き合ってから帰れる」
「帰る?どこに?」
「え?どこって、僕はもう引退しなきゃいけないのは確定だし……一度日本に帰って――」
「どうして?」

ヴィクトルが無邪気な笑顔で問うてくる。
だがこれが装われた無邪気さだという事を、徹は知っている。
何度かこんな風にとぼけて無邪気を装い、すっぱりと冷淡な言葉を言って捨てたヴィクトルを見たことがある。
たとえばユーリ・プリセツキーのショートプログラム滑走後だとか。
あの時のヴィクトルはユーリを褒めるのかと思いきや、いい笑顔でダメ出しを連発したのだ。

徹は緩んだはずの頬が、また緊張にひきつるのを感じた。
ヴィクトルから距離をとろうと、防衛本能が徹を後退させる。
だが、後ずさりしようとする徹の腕を、ヴィクトルはがしりとつかんで再度引き寄せた。

「ひっ」

思わずひきつった声が出た。
ヴィクトルは目を細め、妖艶に笑う。
薄暗い中で街灯の光を背負って笑う彼に、徹は悪魔を見たような気がした。

「トール、どうして逃げる?」
「に、逃げてなんかないよ」
「そう?」

ぐっとヴィクトルの腕に力が入り、鼻先がつきそうなほどに接近される。
ターコイズの瞳が好奇心に揺れて、そこに映る徹は今にも喰われそうな草食動物の顔をしていた。
にこり、と一層ヴィクトルは笑みを深めて、徹の耳へと囁きをこぼす。

「トール、君は今日から俺専属のコーチになれ」
「は…………?」

ヴィクトルによって気持ちは落ちつけられたはずなのに、今再び体の中が熱くなって混乱してしかたがない。
ヴィクトルの発した言葉一つ一つをかみしめ、かみ砕いて、理解して、それでも頭は追いつけずにオーバーヒートする。
幻想的で憂鬱なサンクトペテルブルクの夜。
自分は今夢でも見ているんじゃないのか?
本当は橋の上で凍え死んでいて、可愛そうに思った神様が最期にいい夢を見せてくれているんじゃ?

ヴィクトルの有無を言わせぬ強い瞳が、徹を見下ろしている。
自然、喉が鳴った。
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