第3章 再会!帰郷のリンクメイト!
グランプリファイナルが終わり、また次の大会が始まる。
ヴィクトル・ニキフォロフと宮樫徹は、皇帝の名にふさわしく表彰台を制覇した。
今年の世界選手権大会、開催地は東京。
徹は久しぶりの帰国に目頭が熱くなった。
世界選手権大会が東京だと聞いた家族は「ロシアに帰る前に一回顔を見せに来い」とメールを送ってきたし、徹も徹で久しぶりに長谷津の仲間に会いたい気持ちもあって、大会後はしばらく日本にいる予定だ。
会場へ向かうバスに揺られながら、これからヴィクトルが滑走するフリープログラムではなく、大会が終わったあとの事に思いをはせられるのも、ヴィクトルの勝利を疑っていないからだ。
「俺もハセツ行きたいな〜、トールの両親に挨拶したい」
「だめだよ、マッカチンが待ってるだろ」
「マッカチンはトールのことも待ってる」
「でも今回は一緒に帰らないからね。休暇は大事だし、家族も大事にするべきだって言ったのはヴィクトルでしょ」
ヴィクトルがむう、と頬をふくらませる。
27歳がやるような仕草ではないが、何故かヴィクトルだとそれも様になっているような気がしてしまうからズルい。
「それにしても、ロシアに帰る、か。いつの間にか日本よりもロシアの方が祖国みたいになっちゃったな」
「それは悪いこと?」
「全然。むしろ嬉しいよ」
バスが止まる。
ヴィクトルが立ち上がると、まるで姫君をエスコートする王子のような動きで、徹へ手を差し伸べた。
こういうキザな仕草まで様になるのだから、ヴィクトルはズルい。
徹がコーチになりたての時には、あんまりにも仕草のいちいちが様になるものだから、リビング・レジェンドは格が違うと感心したものだったが、もはや慣れてしまった。
同じ男として嫉妬するくらいには。
「こういうのは、僕がするべきじゃないかな」
「選手をエスコートするのはコーチの役目?」
「そう」
「なら、今度はトールが」
昇降口まで手を引かれた徹は、突然先を譲られ、ヴィクトルより先にステップを降りた。
徹が意図を理解して彼を見上げると、先を促すように右手が伸びてくる。
徹はなるべく王子らしくなるように柔い笑みを浮かべて、ヴィクトルの手を左手で受ける。