第3章 再会!帰郷のリンクメイト!
ユーリ!と呼ぶ声に振り返った。
聞きなれない声だったけれども、名前を呼ばれたら誰だって条件反射に振り向いてしまうのは仕方のないことだ。
そして呼び声の主を見た途端に、勝生勇利はそれが自分を呼ぶ声でないことを知覚した。
ユーリ・プリセツキー。
ロシアの妖精と呼ばれるジュニアスケーターが、ヴィクトル・ニキフォロフと共にエントランスを闊歩していた。
「今回のフリーだけど、ステップシーエクンスはもう少し……」
「優勝したから別にいいだろ」
至極鬱陶しそうに、ユーリ・プリセツキーはヴィクトルをはねのける。
口のききかたがなんだとか、合流したコーチにお叱りを受けていたが、ユーリは素知らぬ顔で、ヴィクトルの背後を見て目を丸くした。
「アイツどこ行ったんだよ。さっきまで後ろにいたろ?」
「あぁ、それなら……ほら来た」
ヴィクトルが背後のドアを指差す。
勇利もつられてヴィクトルの指す方を見た。
ディムグレイのスーツ、ブルーのタイ。
もの憂げに目を伏せて、口元に指を寄せる優美な仕草。
日本人にしては薄い色素の瞳が、ヴィクトルを見つけて微笑む。
徹だ。宮樫徹。
「ごめん、ヴィクトル」
「探しものは?」
「うーん、また今度。かな」
勇利は彼を呼ぼうとして、口をつぐんだ。
どうしよう、と勇利が思うのと同時に、徹とパチリと目があった。
ゴールドにも見えるライトブラウンの瞳が、勇利を見つけて輝く。
勇利、と唇が名前を形作る。
会話を中断されたヴィクトルも、勇利の方を振り返った。
「えっ……」
狼狽する勇利を見たヴィクトルは、納得したという顔で笑顔をたたえ、お決まりの一言。
「記念写真?いいよ」
ずくり、と。
見えない物が抉られる音が、勇利にはハッキリと聞こえた。
徹が驚いた顔で勇利を見ている。
悲しいに変換されたはずの悔しいが、また胃の底からせり上がってあふれてくる。
勇利は唇を噛むと、踵を返して歩き出した。
「勝生くん!ヴィクトルと記念写真はいいの?」
悔しい。
やっと同じ場所に立てたと思っていたのは、自分だけだ。
人の流れを規制するための赤いテープとポール。
それで区切られただけの数メーターの距離が、こんなにも遠い。
記念写真なんか撮って、笑える自信がない。
勇利は流れ出す涙を拭う余裕もなく、ただ、ただ泣いた。
