第5章 現れた天使
伸びた爪を噛みながらベッドの上で膝を抱えて紅楼を待つ。
電気のつけてない部屋は真っ暗で凄く居心地が良くて、悪魔界を思い出す。
『懐かしい……っ』
そんな事を考えていると扉が開き紅楼が入って来て電気がつけられる。
『まぶし……っ』
急に明るくなったため眩しいのと驚いたので慌てては布団を上から被る。
「?? 具合でも悪いんですか」
『違う。 いきなり明るくされるのは苦手なの』
「!! それは知りませんでした。 すみません」
そう言って壁際で丸まるの前に腰掛け、顔を近づける。
「陽の光が駄目なのは知っていたんですけどね」
『……しっかり覚えててよ』
「えぇ、もちろんです。 勉強になりました」
紅楼の真っ直ぐな気持ちが受け取りがたくて、顔を伏せて爪を噛む。
すると紅楼の手が伸びてきて噛んでいた手を掴まれる。
『なに?』
「いえ、怒った姿を初めて見ましたから」
長く鋭くなり未だに戻らない爪を珍しそうに紅楼は眺めているため、ギュッと力を込めて手に爪を食い込ませてみる。
「っ、痛いですよ」
手首を強く掴まれ力を緩めて謝る。
予想より慌てなかったなぁ……と、少し残念だった。
モゾモゾと布団を被ったまま紅楼に近づいてくっつく。
「甘えてるんですか?」
『悪い?』
「悪くないですよ。 お好きな様にどうぞ」
優しげな声で言ってくるから遠慮なんて無くて、紅楼の肩に頭を乗せその匂いを嗅ぐ。
やっぱり、いい匂い。
甘いその匂いが私の体をいっぱいに満たす。
……噛みつきたくなっちゃう。
いざ噛み付こうとした時ムギュッと頰っ辺を掴まれた。
『んむっ……』
「そう言えば牙も生えてましたよね?」
『んあっ、はへてるほ(生えてるよ)』
「見せてもらっても?」
『いいへほ、はやくひて(良いけど、早くして)』
んあ、と口を開けて尖った長い牙を見せる。
現物を見るのは初めてなのか、物珍しそうに見ているその表情を見て紅楼でもこんな顔をするのか、と思ってしまった。