第5章 現れた天使
「そう言えば、あの後ハラから何もされてませんか?」
『ハラって?』
夕食を食べている紅楼の向かいに座る私は聞き慣れない名前に首を傾げる。
「あぁ、アイツ名乗ってなかったのか。 に悪戯をした天使の事です」
『あぁ! あの天使かっ! 何か無理矢理起こされて、追い詰められて本当、消されるかと思ったよ……』
思い出しただけでも背筋が凍るくらいの恐怖体験だった。
青ざめた顔をして言えば紅楼はどこか面白がっていた。
「そんな顔をするぐらいですか。 余程だったんですね」
『むっ、面白がってるでしょ! あれ本当に怖かったんだよ?!』
「いや、すみません」
謝りつつも微かに笑っている紅楼を見て私は頬を膨らます。
こちとら命の危機が迫ってたというのに。
『ってか、何かこの部屋花多くなってない?』
ふと朝との違いに気づき部屋の中を見渡す。
花瓶に生けられたものから花束になっているものまで色々置かれてる。
「えぇ、いつも教会に来て下さる皆さんが自宅に咲いた花を持ってきて下さるんですよ」
『なんで持ってくるの?』
「さぁ、どうしてですかね」
『紅楼も分からないの?』
「…………。」
問い掛けても笑って誤魔化されてしまった。
食べ終わった食器を片付けている姿を眺めながら、その意味を考えてみる。
なんで花を…… わざわざ持ってくる意味って何なんだろう?
珍しく真剣に悩んでいると玄関のベルが鳴る音が聴こえて我に返る。