赤い空、秋の風、耳に届くは雨の声。 《ハイキュー!!》
第1章 赤い空を仰ぎ、
数時間振りに見た彼女は、肩で息をしていて走ってきたのが良く分かった。
『あ、赤葦君、木葉いる?』
「用具室にいるんじゃ…どうしました?」
なんの用事だろう、と思い訊ねると、彼女はカバンからプリントを一枚取り出した。
『先生がね、進路について話したいから部活の後に職員室に寄ってほしいって』
「木葉さん、進学組ですもんね」
『木兎は推薦で行くみたいだけどね。木葉とか小見とか、みんなどうするのかな…』
どうするのかな、の先。彼女は何も言わなかった。それはきっと、口にしない方がいい。
例えば進学後の関係とか、例えば大学でもバレーを続けるのか否かとか。今のままが一番いいから、そういう話は、したくない。
俺がトスを上げる先には、木兎さんがいつもいて。木葉さんと猿杙さんと鷲尾さんと、俺のセットアップで点を獲れた時は、ものすごく嬉しかった。
"大学"という言葉を聞いて、はっきりと意識してしまった、避けようのない"別れ"。
今のチームでプレーできるのは、今だけなのだと、改めて思った。彼女とこんな風に話せるのと、今だけなのだと、改めて思った。
『もしもーし、赤葦君?』
「……あ、すみません。考え事してて」
『すごい顔だったよ?眉間にシワ寄ってた』
クスクスと笑いながら、彼女は背伸びをして俺の眉間をつんとつついた。そういえば、いつの間に俺は背が伸びたのだろうか。前はもっと、彼女に近かったのに。
艶やかな髪が目に入り、無意識のうちに手を伸ばす。あと少しで触れる、その時に、誰かが彼女を呼ぶのが聞こえた。用具室から木葉さんが出てきたところだった。
「雨宮じゃん、どしたの?」
『木葉!』
彼女が木葉さんに気付いた瞬間、表情ががらりと変わった。俺といる時に見せる"近所のお姉さん"の顔から"恋する少女"へと。その変化を目の当たりにして、心がざわめく。
「赤葦となーに話してたの?」
『んー、進路のこととかいろいろ。あと、木葉がどこにいるか訊いてたの』
ねー?と首を傾げる彼女に、俺は曖昧に頷く。ふぅん、と木葉さんは呟き、それから彼女に少し待つよう伝え、片付けに向かった。