赤い空、秋の風、耳に届くは雨の声。 《ハイキュー!!》
第1章 赤い空を仰ぎ、
帰り道、みんなで木葉さんを待って、それから帰る。彼女の隣に、当たり前のように木葉さんがいる。その光景にチクリ、胸が痛む。
「なー木葉ー」
「あ?」
「木葉と雨宮って付き合ってんの?」
「おう」
『あれ、木兎知らなかったの?』
「なんっにも!」
そんな会話に、あぁやっぱりと納得する自分と、羨ましいと思う自分がいる。
彼女と木葉さんは付き合っている。
その事実がどうしようもないのは知っている、頭では分かっている。なのに心のどこかで追い付いておらず、その後の会話は右から左へと耳を通り抜けるだけだった。
コンビニの近くの交差点で別れ、家へと向かう。彼女の隣には、木葉さんじゃなくて、今度は俺がいる。少なからず喜んでいる自分がいて、それがどうしようもなく嫌になった。
『赤葦君とこうして帰るの、久し振りだね』
「そうですね。中学校以来ですか?」
『そうかな。なんか、懐かしいね』
「そうですね」
近所のネコがどうとか、世界史の教師と英語の教師がどうとか、木兎さんがどうとか、そんな話をした。
緩やかに流れる時が、心地好くて、ずっと続けばいいと思った。街灯に照らされる道を俺達は歩いた。 そして俺の家の前で別れる。
『じゃあ赤葦君、またね』
「はい、また―――雨宮さん」
少し躊躇った後、俺はそう言った。彼女は弛く微笑むと、手を振って歩いていった。
ビュウ、と秋の冷ややかな風が、俺と彼女の間を吹き抜けた。まるで、違う世界なのだと、知 らしめるかのように。
一瞬見せた彼女の淋しげな笑顔、
アスファルトに一人きりの影法師、
どうにも目を逸らしたくなって
俺は、空を仰いだ。
濃紺に変わる、茜色の空に、嗤う三日月。
届きそうで、届かなくて。
手を伸ばせば、離れ、すり抜けていって。
俺だけ、時の波に取り残されたよう。
どうして、世界は
俺を置き去りにしてしまったのだろう。