赤い空、秋の風、耳に届くは雨の声。 《ハイキュー!!》
第1章 赤い空を仰ぎ、
彼女、雨宮実緒とは、小学校から一緒だった。学年は1つ違ったが、家も近く親同士の仲が良かった。休日などは出掛けたり、バーベキューしたりと、家族ぐるみの付き合いがあった。
彼女は俺を"京治君"と、俺は彼女を"実緒姉ちゃん"と呼び、それなりに遊んだり楽しく過ごした記憶がある。
そしてあれは、俺が中学2年の頃だった。数学でわからないところがあり、彼女に訊きに行こうと3学年のフロアー訪れた。そこで彼女と友人達の会話を聞いてしまった。
「実緒ってさぁ、2年のバレー部の赤葦君と仲良いよね~付き合ってんの!?」
廊下の向こうから聞こえる声に、さっと隠れる。彼女がなんと答えるのか、興味があるのと同時に、聞きたくない気持ちもあった。
聞いたら関係が壊れてしまいそうだった。
そんな気持ちとは裏腹に、彼女のよく通った声は、俺の耳へと届いてしまった。
『付き合ってなんかないってば』
「でも一緒に帰ったり、遊んだりとかしてるんでしょ?この前見たよ~?」
どこかからかいを含んだ友人のセリフに、彼女は苦笑しながら言った。
『違う違う。なんて言うんだろ、たぶん弟…みたいな感じなんだよね』
その言葉を聞いた瞬間、どっと後悔した。俺の中で何かが崩れる。がらがらと、音をたてて、跡形もなく崩れ去ってしまった。
それが何だったのか、俺にはよくわからない。ただ1つ、確かなことは、彼女は俺を、恋愛対象として見ていなかったこと。
そしてこれからも、そうはならないこと。
中学生の恋なんて、しょせんはお遊び。そうは言うものの、俺は彼女が好きだったのだ。"近所のお姉さん"としてではなく、一人の女性として、人として、好きだったのだ。
今となってはもうわからない。けれど俺は、実緒のことが、きっと、好きだったのだ。
ずっと心に秘めていた淡い想い。それは、想い人の一言に呆気なく壊れてしまった。
そして翌日から、俺は彼女のことを"実緒"とは呼ばなくなった。いや、正しくは"呼べなくなった"のだ。
今まで、どうやってその名を口にしていたのかすら、俺はどうしてもわからなかった。