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赤い空、秋の風、耳に届くは雨の声。   《ハイキュー!!》

第1章 赤い空を仰ぎ、



図書室へ入ってすぐ、左手にあるのが図書カウンター、その対角にある右奥のテーブル。そこが彼女―――雨宮実緒の定位置だった。

俺が当番の日には大抵そこにいて、昼休みも放課後も、ただ静かに本を読んでいた。俺と彼女は幼馴染みで、でも、特に話したりはしない。そんな関係。


その放課後も、彼女がいるのは知っていた。図書委員として、カウンターにいるだけではとても暇。なので俺は本を読んでいた。

ふっ、と読んでいる本に影が落ちた。なんだろうと思い、顔を上げると、そこには一冊の本を持った彼女が立っていた。

『これ、お願いします』

大きくはない、それでいて、凛としているその声。まるで真冬の朝の冷えきった空気のような、それでいて、妙な甘やかさがあって。見惚れた、というか、聞き惚れた。

だから、一瞬反応が遅れた。

『あの、赤葦君…』

「あぁ、すみません。ぼーっとしてて」

俺が本を受け取りそう言うと、クスリ。彼女は小さく笑った。その笑みは、そこだけ花が咲いているかのようだった。

「この本、シリーズものですよね」

"獣の奏者"と書かれたその本は、不思議と彼女の雰囲気に合っていた。

『そう。大河ファンタジーでね、主人公の心の描写がきれいで、好きなの。前にも何度か読んだんだけど、また読みたくなって』

本の話をする彼女は、本当に楽しそうだ。読書の秋、とはよく言ったものだが、彼女の場合は、一年を通して読書の季節のようだ。

『赤葦君は何を読んでるんですか』

「俺はミステリーですよ」

書店で付けてもらったカバーを取ると、かの有名な三毛猫の推理本。

『なんか、少し意外かも。ほら、この本って意外とコミカルなところがあるじゃない?』

「そうですね。俺は基本何でも読みますよ」

へぇ、と彼女は呟く。話ながらも手続きを済ませ、貸し出した本を彼女に渡す。

「期限は2週間です」

『はい。どうもありがとう―――』


―――赤葦君。


少し迷った末に、彼女は言った。それからドアを出る時に小さく手を振り、図書室を出る。

カチコチと時計の音だけが響く。さっきは、何と迷ったのだろう。名前を、京治君、と、呼ぼうとしたのだろうか。昔のように。

「いつから、こうなったんだろう…」

カチコチ、カチコチ。俺の言葉に応えたのは、無機質な時計の音だけだった。


   
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