第1章 彼女は何も持たない
あぁ、と声が漏れた。
なんだ。そうだったのか。
…鍵はもう持っていたのか。
手の平で輝きを放つソレ。
『ワタシ』がずっと首にさげていた、ネックレス。
銀のアクセサリー。
鍵はこれか。
「身に着けていたこれが、そんなモノだったなんて…」
確信を持って呟いて、何か可笑しくてフフッと笑う。
ただのアクセサリーだと思っていたのに。
間違っていたら失笑モノだと思いながら、『ワタシ』は鉄壁の扉へ向かう。
何かを思い出した訳では無い。
記憶が戻った訳でも無い。
ただあったのは、これは鍵なんだという確信。
扉の前で、再度アクセサリーを眺める。
小指より小さい長方形。薄さは5ミリも無い。
シンプルなアクセサリーに見えるけど、ペットが付けるタグにも見えた。
ペットが付けるタグは、そのタグの製造番号と、ペットの名前が書かれているらしい。
アクセサリーの片面には、18907という数字と、ローマ字で人の名前が刻まれていた。
「『ワタシ』は…」
脳裏に良くない想像が浮かぶ。
目を一度きつく瞑って、その想像を思考の外に押し出す。
あるわけない、と自分に言い聞かせる。
人間がペットだなんてある訳無い、と。
記憶は無くても知識は残っている。
『ワタシ』の知識が正しければ、数百年前は奴隷やら人身売買という行為、認識があったらしいが、監視惑星となった今の地球では皆無に等しい。
飛行型監視カメラ。
地面に埋め込まれた超薄型液晶監視カメラ。
いたる所で徘徊している可愛らしい3頭身の警備ロボット。人工知能が付いていて、道案内もしてくれるロボットだが、彼らの目は警察直放の防犯カメラになっている。
360度を録画、監視されている今の地球で誘拐が成功した試しは無い。
だから、大丈夫。
「大丈夫…」
言い聞かせるように呟く。