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感染通路

第1章 彼女は何も持たない



 良くない想像が甦る前に、『ワタシ』はネックレスを首から外し、アクセサリーを鍵穴に差し込みやすいよう持ち直した。
 
 これが本当に鍵なら。
 記憶を失う前の『ワタシ』はこのアクセサリーを鍵だと認知し、何度か使用していたのだろう。
 椅子があれば座る様に、外に出る時は靴を履く様に。体に染み込む程、このアクセサリーを当たり前の様に使っていたんだ。
 
 このアクセサリーを当たり前の様に使う『記憶を失う前の自分』をぼんやりと思い浮かべる。
 その扉の先はなんだったのだろうか。
 この扉の先はなんだったのだろうか。

 この扉の先は何だろう。

 スッ とアクセサリーを鍵穴に差し込む。
 寸分違わずに、アクセサリーは鍵穴に嵌った。


 ピピッ と、どこからともなく電子音が鳴った。

 室内に、女性の様な機械音声が流れた。
 『登録コード 18907 星野暁美 認証』

 アクセサリーに刻まれていたモノと同じ、名前。同じ、数字。

 『ワタシ』が唯一持っていたアクセサリーに刻まれた名前。


 ――『星野 暁美』――
 これは、『ワタシ』の名前なのだろうか。

 ――『認証』――
 
 『ワタシ』

 ワタシ

 私…

 

 
 私は、誰…なのだろう。
 私が
 星野暁美
 だったとしたら。

 …私は何?
 『18907』
 私は、何故ここに?
 こんな格好で。

 誘拐、じゃ、ない
 ありえない
 地球ではそんな事は起きない
 地球では

 「あ…」
 
 ――地球では――

 余計な知識が、宇宙旅行中の失踪事件がある事を思い出させる

 微かな振動と共に、ヴヴヴヴヴと機械が動き始める音がした。
 目の前の扉がゆっくり開き始める。

 鼓動が早くなる
 酸素が回らなくなる

 耐えきれなくなって胸を押さえて俯く。
 駄目だ、怖がるな
 『18907』

 誘拐
 『18907』
 ペット

 『18907』
 タグ
 ペット
 愛玩

 嫌な想像が頭を駆け巡る。

 ガコ、ン…と扉の動きが止まる。

 扉が完全に開ききったらしい。
 だけど顔を上げれない。
 前を向けない。

 痛い程の静寂。
 この先には何が…?

 前を向かないと。
 このままでいたい。
 動かないと
 進みたくない

 だけど
 
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