第1章 彼女は何も持たない
暗闇の中で、転ばない様にと壁伝いに歩いて辿り着いた二枚目の扉も、一枚目と同じ型の扉だった。
形、構造、そして扉の上に取り付けてある感知センサーらしき物が反応しない所も、一枚目とまるっきり同じだった。
だけど
「明りが...」
扉の向こうに、光があった。
扉のほんのわずかな隙間から射し込んでくる淡く白い光が、それを証明している。
「...すみません...誰か居ますか...?」
冷たい扉をコン、コン、と叩きながら『ワタシ』は扉の向こうに問いかける。
返事は無い。
物音も聞こえない。
扉を叩くのを止め、今度は扉を開ける為、静かに手を当てる。
一枚目の扉と同じく、横に押すと、扉はズズ...という感触と音と共に少しずつ開く。
だけど、1つだけ違う所があった。
開けてすぐ、ズズズという音がガリガリガリという何かが擦れ会う音に変わった。
それと同時に扉が開きにくくなる。
不安を煽る音に、少しだけ、心臓の鼓動が早くなる。
だけど、手を止めるという選択肢は選ばない。
ガリガリと耳障りな音。
顔に降りかかる眩しい光。
額にじんわりと汗が滲むのを感じながら、力一杯横に押す。
...けど、半分まで開けた所で、ガッ...という音を最後に扉はそれ以上開かなくなった。
「...?何で...?」
一度扉から手を離し、再び扉に手をかけてグーッ...と押してもびくともしない。
扉から手を離し、胸元で緩んだシーツをきつく巻き直しながら、中途半端に開きっぱなしな扉と、そこから入り込む白い光を見つめる。
光に目が眩んだのは最初だけで、すぐに、白い光の中にある物ーー扉の向こうの景色ーーがはっきりと見えるようになった。