第1章 彼女は何も持たない
何があったのか想像できない。
床の上で目覚めた『ワタシ』は、白い布に包まれていた。
それ以外、何も着ていない。
服も。下着も。
素肌の上に、直接白い布を『ワタシ』はまとっていた。お風呂上がりの様に、胸から足首が隠れる程の位置で布を体に巻き付けている。
タオル...では無い。
その布は、正確に言えばシーツらしい。ベッドに使うシーツ。感触的にそれっぽい。
凄く薄くて、お風呂上がりに巻く様な物とはとても思えない。
私は、何でこんな格好を...?
何故ここに... ?何でこんな事に...?
太もも、腹部、そして胸。
下からスーッと布を撫でていく内に、自分の首に何かがある事に気付いた。
ネックレス...?
それは確かにネックレスだった。
首にかかるチェーンの先に、親指程度の大きの、長方形の形をしたアクセサリーが付いている。
何かが刻まれているけど、暗くてよく見えない。
ネックレスから意識を離し、顔を上げる。
目の前に、出入口らしい鉄製の扉がある。
出ても...大丈夫なのかな...?
辺りを見渡しても、段ボールと木箱が高く積み上がっているだけで、ここ以外、他に出入口は無さそう。
よた、と立ち上がって、布が落ちないように胸元で抑えながら、出入口まで歩み寄る。
「だ、だれか...誰か、居ますか...?」
声をかけて耳を澄ます。だけど、扉の向こうからは何も聞こえない。
「誰も...いません、よね...?」
一応声をかけながら、扉に手を当てる。
扉は、横にスライドして開けるタイプらしい。
少し力を入れて横に引くと、ズズズ...と重たい感触と共に扉は少しずつ開いた。
元々、自動ドアだったらしい。
扉の上に、感知センサーらしき物が見える。
だけど壊れているのか、はたまた別にスイッチがあるのか、今は自動的に開かなかった。
それでも、扉は途中で引っ掛かる事も無く、手だけでも開けきる事ができた。
壁に隠れながら、そっ...と扉の向こう側を見ると、そこにあったのは、何て事の無い、ただの通路だった。
安全...とは言い難い暗さだけど、通路の先にまた扉があるのが、ここからでも分かる。
『ワタシ』はその扉の先に進む事が『最善』である事を願いながら、通路に足を踏み入れた。