第12章 失われた言葉
今尚、周りで絶えず起こっているいざこざを眺めていたユナは改まって聞くロビンに視線を向けた。
『…なに?』
「前から気になっていたのだけれど…あなた、結構古い言葉を使うわよね」
ロビンの質問にユナは黙って話しの続きを促す。
ロビンが言うにはユナが技を使う時の言葉が今では使われていない、もう何百年も前に失われた言語だとか。
「それをどうしてあなたは知っているのかしら?」
怪しむのではなくただ本当に疑問に思った事を聞いているのだろう、ユナは内心溜息をついた。
考古学者は常人より博識だ、彼等は過去の文化や歴史を常に探求し独自に紐解いていく。職業病とも言えるだろう、悪気は無いのだろうが時としてそれは人の過去を暴く事となるのだ。
考古学者が苦手な一つの理由はそこにある。
『そうなの?知らなかったわ…私の生まれた村では普通だったから』
表情は変えずにしれっと言えばロビンはどこか少し驚いている様子だった。
「それは……」
『──っ‼︎ ロビン危ない!』
「え──っ⁉︎」
ロビンの声を遮りユナが叫ぶと同時にロビンを突き飛ばす、突き飛ばされたロビンは蹌踉めきさえしたもののすぐに態勢を持ち直す。
そこで目にしたのは自分が元いた場所を貫く一つの銃弾だった。
状況を理解出来ずに動きが止まるロビンを尻目にユナは銃弾が飛んできた方を睨む、目を凝らし辺りを探るがそれらしき狙撃手は見つからない。
これだけ治安の悪い町なら流れ弾が飛んで来てもおかしく無いだろう、だがそれにしても銃弾の軌道が的確すぎる。
ユナが突き飛ばさなければ間違いなくロビンの心臓に当たっていただろう。まだ来るかもしれない銃弾に警戒しながらもユナはロビンを促す。
『ロビン…早くここを離れた方がいいわ』
「…えぇ」
ロビンもユナと同じ事を考えたのだろう二人は足早にその場を離れて行った。
──その様子を一人の男が遥か遠くの高台から眺めていた。
「まさか気付かれるとは…だがそれもまた巡り逢わせか……面白い」
身の丈ほどの銃を片手に片方がスコープになっている眼鏡をかけた男は興味深そうに顎に手を添える。そして口端を釣り上げ不気味に笑うと男もまたその場から姿を消したのだった。