第12章 失われた言葉
突然現れた女性二人に酒場にいた全員の視線が集まるが、二人は気にも止めずマスターがいるカウンターへと足を運ぶ。
「いらっしゃい、珍しいね若い子がこんな所に来るなんて」
「そうなの?…ちょっと聞きたい事があるのだけれど…」
マスターとロビンが話す横でユナはこちらに近付いて来る一人の男に気が付いた。
「よォねェちゃん達、良かったら一緒に飲もうぜ…むさ苦しい男ばっかりで丁度花が欲しかった所なんだ」
へへへとビール片手に男が言う、男の居たであろう席では「よく言うぜ」や「こっち来いよ」など声が飛ぶ、明らかに酔っ払いだった。まぁここは酒場だ、そういう輩がいるのは当たり前だろう。
「ごめんなさい、折角だけどわたし達話を聞きに来ただけなの」
こういう場には慣れているのだろう、ロビンが丁重にお断りする。だが酒が入った酔っ払いがそれで引き下がる筈もなく尚も食い下がって来る。
「いいじゃねェか、話なら俺らがしてやるよ…因みになにを聞きてェんだ?」
いつの間にかユナの横にも違う男が立っていた。
『空島についてよ』
横の男を気にも止めずにユナが答えれば酒場にいた全員が一斉にどよめいた、マスターですらどこか驚いている。
異様な空気に疑問を感じていると今度は一斉に笑い声に変わる。
「だはははは!姉ちゃん達正気かよ⁉︎」
「あっはっは、ホント頭大丈夫か?」
「このご時世そんな絵空事言ってっとあの”クリケット”みたいに追い出されるぞ」
「あはは違ェねェ!」
馬鹿にされた笑いを向けられたにも関わらずユナもロビンも特に表情を変える事はなかった、それよりも一人の男が口にした言葉に興味を示す。
「その”クリケット”の事…もっと詳しく教えて貰えないかしら?」
「あァ?なんだよジジィの話より俺らの話の方が楽しいぜ?」
だからこっち来いよとユナの隣にいた男が肩を掴もうと腕を伸ばした刹那──
パシッと乾いた音が響いた。
『…気安く触らないで』
「ハハハ、あいつ振られてやんの」
ユナに手を叩かれた男は一部始終を見ていた仲間に茶化されて、怒りと恥ずかしさからみるみる内に顔が赤くなっていった。