第7章 タイムリミットとビビの声
『……ん』
微かな腹部の痛みと風の騒めきにユナは目を覚ました。
『…あれ…私…』
ユナは記憶を手繰り血が足りず意識を手放した事を思い出す。
『そうだ!砲撃は…みんなはどうなったんだろ…っ』
起き上がり辺りをキョロキョロと見渡す、見る限り爆弾の被害は見当たらないから砲撃は上手く止めれたのだろう…だが。
この異常なほどの狂気は何なのか、意識を失う前より争いが酷くなっている。
『みんな無事かな…』
無意識に時計台を見ればそこには人影らしきものがあった。これでも視力はいい方だと自負しているユナは目を凝らして時計台を見た。
『…ビビ…?』
時計台にいたのはビビだった、必死に何かを叫んでいる様に見える。ユナは耳を澄まし風を伝ってビビの声を探った。
「戦いを…………下さい‼︎」
「戦いを‼︎やめて下さい‼︎」
ビビの悲痛な願いだった、この争いの狂気の中、ビビの声が届く事は無いだろう、それでも必死に叫ぶビビの姿にユナは無意識に胸元を握り締めた。
今この状況で自分に出来る事は何なのか、ユナは必死に考える。ズキズキと痛む腹部に手を当てながら、ユナはふと気付く。
傷が痛む、それに今自分は立っている…、気を失う前は踏ん張らなければ立てなかったし傷の痛みも無かった。
クロコダイルに打たれた薬が切れてきたのだろう、ユナは感覚を確かめる様にゆっくりと手を握って開く。
『──うん、いける』
呟くとユナは深呼吸をする、まだ微かに違和感はあるがもう待てる状況じゃない、例え”自然の理”に反する事になってもこの狂気を鎮めるには雨を呼ぶしか無い。
雨がなくなって町が廃れた、雨を奪われて反乱が起こった、雨さえ降ればビビの声さえ届けばこの争いも鎮まるだろう。
エースにバレたらまた悲しい顔をして怒るんだろうなと、帽子の顎紐の装飾品を握り締めながらユナは自嘲気味に笑った。