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もう戻れない夏の日に

第3章 目を覚ましたのは…



ふ、と。
真っ暗な世界が唐突に薄れ、視界いっぱいが白に埋められた。

―――あの世。

一瞬よぎったそれは規則的な電子音で打ち消され、病院か、と現実を見つめる。
「―――赤也…?」
白、白、白―――、赤。
微かな悲鳴を上げて空いた扉の隙間から、見慣れていた赤が覗いた。
「丸井、先輩…?」
少し、大人びた顔はきっともう女の子みたい、なんて茶化されることはないのだろう。
記憶にあるよりも痩せたその顔を見つめ、ぼんやりとそんなことを考える。
だが、ふざけた考えもすぐに止めざるを得なくなった。
「起きた…のか?」
共によくいたずらを企んだ緑色の瞳は見たことも無いくらい見開かれ、驚愕と不安と期待に埋められた。

(―――ダメ、だ。)

本能に近い何かで、そう悟る。
「ここ、病院…スよね? 何で俺、こんなとこにいるんスか?」
胸に溢れかえる感情の名もわからないまま、彼に返す。
こうする他、どうすればいい?
だって、彼は、気付いてしまっていた。
それはきっと、彼らも同じ。
白一色の病室には少々似つかわしくない明るい色彩の花束が、先輩の動きに合わせてバサリと大袈裟な音をたてる。
「赤也…? お前、なに……」
「うえ!? もしかして俺、なんかしちまいましたか!」
ぎゅっと皺の寄った眉間にびくびく肩を震わせた途端、ようやく幼さの抜け始めた顔が、歪んだ。
「…ッ 何でもねぇよ。 オレ、ちょっと幸村君たちに連絡してくる…!」
はい、これ見舞い、とやや乱暴に投げて渡された花束を何とかキャッチしたときにはもう、彼の姿は扉の向こうへと消えていた。
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