• テキストサイズ

もう戻れない夏の日に

第3章 目を覚ましたのは…


「ちぇ。香り、ぜんぜんねぇのかよ」
ぽふ、と花に鼻先を突っ込んで呟けば、あまりの声の掠れ具合に苦笑を洩らさずにはいられない。
花と花の合間から見えた空の青さにも、やっぱり口角を歪ませる。
「俺、ダメダメじゃん…」

―――貴方たちだけでも、幸せになってください。

「何で、生きてんだよ…ッ」
あんなに願っていたのに。
生きていたら、生きてなんかいたら、優しい彼らは間違いなく自分たちを責めてしまうのに。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
死ねなかった。
もう、死ねない。
また同じことをすれば、きっと彼らが傷つく。
もう、傷つけるわけにはいかない。
(それでも…)
まだ死にたいなんて願う俺は、なんて自分勝手なんだ。
寝て、起きて。
変わらず流れない涙のせいか、やけに胸が痛い。
けれど、『大丈夫』だ。
まだ頑張れる。
「赤也…!」
そう、証明するかのように勢いよく開いた扉の向こうの、懐かしい先輩たちに笑いかける。
「あははっ 慌てすぎッスよ、ぶちょーたち。俺、ちょー元気ですって」

―――信じて、ください…ッ
―――俺じゃ無いです、俺は、なんもしてません!
―――何で信じてくれないんですか…!?

何度も訴えたのに、気付いてくれなかった彼らは、今になって無実を信じてくれたと言うのか。
心配そうな彼らの目に、へらりと馬鹿みたいに笑って、再び溢れてきた感情の名に気づく。
それは、綺麗に晴れた夏の大空とはあまりに不似合いな―――失望だった。
/ 13ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp