第2章 番外編 第二話「割烹着の話」~鬼蜘蛛丸~
兵庫水軍の海へと戻ってくると、すぐにお目当ての相手が二人いるのを発見した。
一人は買い出しを頼んだお頭。頼まれた縄は義丸が、そして俺は桶を持っている。
もう一人は麻言。二人は一緒にいて何か話している様子だ。
話の間に割り込むのはちょっと気が引けるが、品物を渡すぐらいはいいだろう。
そして、もう片方の手に持つ割烹着を一瞥する。
「――お頭~っ!今戻りましたーっ!」
「おっ!鬼蜘蛛丸っ、義丸っ。買い出しご苦労さんっ」
「二人共、お帰りなさ~いっ」
私達に気付いた二人は笑顔で手を振っている。
お使いの品もだが、早く麻言に割烹着を渡したくてつい駆け足で近寄ると――
「あっ」とつい、声を上げてしまった。
麻言の手に持っていた物を見て。
その視線に気付いた麻言は自分の手元を見ると
「えへへっ、実はお頭から新しい割烹着を頂いたんですよっ!」
「あ、否。正しくは由良四郎の奥さんから、だがな。
お前さんが着てた鬼蜘蛛丸の割烹着どうみてもぶかぶかだったから、気ぃきかせた由良四郎が奥さんに頼んだら新しいのを一着くれたんだよ」
「えっ、そうなんですか!じゃあ、今度由良さんと奥さんにお礼を言わないとですね~」
「そうだなっ」
そう話しながら二人はにこにこと笑っている。
それを見てとっさに私は今日買った割烹着を後手に隠した。
何だか、渡すのに気が引けて。
「そうか……。良かったなあ、麻言」
そう言って、私は笑った。笑っていられていると、思う。