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ただの女、男二人【進撃の巨人】

第8章 夢


寄せられた唇に手を当て、ビアンカはそれを制した。

「風邪、移っちゃうでしょう?」

少しだけ眉を動かすと、不満げな顔をするリヴァイ。
仕方ないと言うように小さく息を吐き、ビアンカから視線を外す。


「明日の朝、また来る」


「うん」


力なく微笑むビアンカに後ろ髪を引かれる思いで扉を潜ったあと、施錠される音を確認した。
いつもビアンカの部屋から帰る時にはこうしている。
慎重過ぎてもそれに越したことはない。



すっかり闇に閉ざされた、地下街の夜。
リヴァイは帰路についた。











それから十日程が過ぎた。
仕事中―――特に帳簿を記す時には気を引き締めて頭を使うようにしているため、以前のようなミスには至っていない。

けれども、どうにも倦怠感が拭えない。
いつまでも続くこの体の不調は何なのだと、ハタキで本棚の埃を払いながら大きく息を吐いた。



その時、ふとあることに気づく。



しばらく月のものが来ていない……。



最後に月経が訪れた時期。
そしてリヴァイと行為に及んだ頃合い。
曖昧な記憶を遡る。

元々の体質で、ビアンカの周期は不順だった。
だからこそ月のものが少し遅れたからといって、大して気にも留めなかったのだ。



「………」



視線を後方の棚へと移す。
医療用の本が並べられた一角。
その中から、妊娠・出産と印字された本に恐る恐る手を伸ばした。


増していく鼓動、震える指先、早くなる呼吸。


「妊娠初期の症状」と書かれたページを開き、目を凝らしつつ一文字一文字を追う。


微熱、倦怠感、吐き気、眠気―――。


いくつか当てはまる、今の自分の症状。
上から下まで何度もそのページを読み込んだあと、片手を下腹部に添えてみる。



「まさか…」



しばらく動けないままでいたが、店の前を横切っていく人の足音で我に返った。


本を閉じ、誰にも見られていなかったことを確認し、慌ててその本を元の場所へと押し込んだ。


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