第8章 夢
日に日に暖かさが増し、すっかり過ごしやすくなった春。
ビアンカは勤め先の古書店で本の整理をしていた。
売り物にならない程に色褪せたもの、湿気のせいでうっすらとカビが付いたもの。
ひとつずつ選別したこれらは、もったいないが処分するしかない。
「ふぅ…。こんなもんかな」
埃にまみれた手のひらをパタパタ叩き、ビアンカははしごを降りる。
「ビアンカ」
「はい?」
「帳簿の収支、また間違ってたぞ」
近づいてきた店主がノートのページを開き、ミスのあった箇所を指した。
それは確かに、昨日ビアンカが記した数字。
「すみません…っ!」
慌てて頭を下げる。
つい最近、同じような間違いを二度も指摘されたばかりなのだ。
「どうした?前はこんなミスしなかっただろう?」
「はい…」
俯くビアンカを見遣り、店主は小さくため息をついた。
帳簿を閉じ彼女に半分背を向ける。
「明日は休みなさい。しっかり休養をとって」
「はい……」
そもそも、客の出入りから考えて二人も人手がいる店ではない。
こんなミスをしていては、休みどころかクビにされてしまう。
ビアンカは店主の背中に向かってもう一度謝罪すると、大きく肩を落とした。
「ビアンカ?」
日没後。リヴァイはいつものように、彼女の部屋に顔を出す。
室内は真っ暗でランプも灯っていない。
物音もしない。
丸く布団が盛り上がったベッドを見て、ビアンカがそこにいることだけはわかった。