第10章 昔話〜濵田崇裕〜 *
オトンが過労で倒れたと聞いたのは、
夏休みが始まる一日前のこと。
修了式が終わってすぐ先生が来た。
病院に行くとそこに居たオトンは
顔に白い布を被せられ、
帰らぬ人となっていた
言葉も、声すらも出なくて
何も言えなかった。
「おと、ん…」
俺やで、なに寝てんねん。
せやからもっと寝た方がええ言ったやろ?
無理して働くからこんな所で寝てまうねんで?
アホやなあ…。
はよ帰って家の布団で寝よや。
なあ、はよ返事して?
はよ起きてよ、なあオトン!
そんな、普通の言葉なんて
心の中でぐるぐる渦巻いていて。
「オトン…っ」
オトン、オトン、
呼び続ける事しか出来なくて。
俺は独りぼっちになったんやって、
思い知らされるのは
また数時間後の事であった。
『濵田くんのお母さん、引き取り拒否したって』
そんな言葉が聞こえた。
会議室に座ってた母親が
俺を見て表情を歪めた
『私、経済的に余裕もないんです』
断る理由は表向き、
ほんまは俺なんて嫌いなんやろ。
一緒に居ると吐き気がするんやろ?
崇「嫌なら嫌ってハッキリ言えや!!!」
俺だってお前なんか嫌いだ。
お前のせいでオトンがいなくなった。
だから、一緒に居たくない。
こっちを見るな。
目を見るな
『崇裕…』
俺の名前を呼ぶな。