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フリリク:へし切長谷部の場合

第1章 まじない事件


そうだ、アレが入り込んだのは胸の中心部…鎖骨に近いところだった。
ほんの少しお召し物をずらして頂ければ確認できるはずだ。何をうろたえることがある。
確かにいつもきっちりと着込んでいらっしゃるお着物を乱すのは非常にそそ…いや、心苦しいが、解決のためとお頼みすれば主のことだ。協力してくださるに決まっている。

「あの…やっぱり長谷部が一緒にこの部屋に籠ることはなかったんじゃない?」
「……俺が一緒にいてはお邪魔でしょうか?」
「まさか!一緒にいられるのは嬉しい…んだけど、長谷部は貴重な戦力だし、本丸内の采配にも長けているから…こんな時こそ皆には長谷部が必要なんじゃないかと思って…」

俺が考えに耽っていたのをどう思ったのか、主は気遣うように、俺にこの結界内から出る選択肢を示す。出ていかないでと、すがるような眼差しのままに。
…おそらく、不安なのだろう。ご自身のお体のこと。本丸内のこと、刀剣たちに影響がでていないか、これからどうなるのか。
少しでもその不安を和らげたくて、俺は主のお体を包み込むように抱きしめる。細くて、柔らかいお体だった。

「こんな時だからこそお側に居たいんですよ。俺を貴重な戦力と思って下さるのでしたら、護衛の務めを果たさせてください。」
「…ありがとう、長谷部。」

あからさまに安堵したという表情に、俺が主のお側を離れるわけがないのにと呆れとも愛しさともつかない笑みが漏れる。
あなたの刀剣としても、近侍としても、恋人としても、離れる訳がない。
そもそもはじめから、例え追い出されようとも何とかしてこの部屋に居座るつもりでいた。

「休暇だと思って、対処法がわかるまではのんびりしましょう。最近の主はずっと働き詰めでしたからね。」
「それは長谷部でしょう?私が働き詰めだと自動的に長谷部も働き詰めになるじゃない。そのうえ出陣までしてもらって…」
「はは、では尚更いい機会ですね。二人でゆっくりしましょう。幸い急を要する書類もありませんし。」
「そう…ね。忙しくて、その…こ、恋仲らしいことも、全然できてなかったし…ちょっと休んでも罰は当たらないわよね。」
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