第10章 美食×谷底×再試験
私が数歩後ろに下がると、地面に立ったクラピカさんは次に登って来ていたレオリオさんに手を伸ばす。
『よっ、と』
レオリオさんがクラピカさんの手を掴みながら崖をよじ登っているのを眺めていると、
突然崖の淵から飛び出て来たキルアが、何でもないように地面に着地して見せた。
崖から飛び降りてそのまま糸の上に立っていた時と言い今回と言い、やることが派手だなぁと少し呆れてしまう。
他の受験者が必死で走っている中でスケボーしてみたり、爆弾で壁を吹っ飛ばしてみたり……
これからもそんなことを目の前でやられるのかと思うと、思わず溜息が漏れる。
『毎度のことだが無茶しやがるぜ!』
レオリオさんの言ったそれが、誰に向けての言葉なのかはすぐにわかった。
いつの間にか崖の上に居て、トードーの重そうな身体を引き上げているゴンの背中を見つめる。
あんな風に優しさを持って生きられたらとも思うけれど、どこか危うさを孕んだその行動が、絶対にいい方向に働くとは限らない。
地面に足をつけたトードーの腕から手を離して、こちらに振り向いたゴンと目が合う。
『ナナ!』
「食糧調達終了~」
ゴンが笑顔で私の名前を呼んだ直後に、メンチさんによって試験の終了が言い渡された。
「それぞれ獲って来た卵を見せて頂戴!」
谷から少し離れた所に用意された、人が何人か入れそうな程大きな鍋の前で仁王立ちしているメンチさん。
その言葉を聞いて、未だに蹲っていたトードーが立ち上がり歩き出した。
メンチさんの所へ向かう途中、ゴンを横目で見たトードーが意地悪く笑う。
「へっ、悪く思うなよ!卵は俺のもんだ!」
その一言で、ゴンと彼の間に何があったかが大体予想できた。
『あの野郎っ、許せねぇ!!』
それだけ言ってスタスタと歩いていくトードーに怒りを露わにしているレオリオさん。
それを見た私は、自分の予想が的外れなものではないのだろうと思い、トードーの後を追おうと一本踏み出す。
『ちょっと待っ』
『大丈夫だよ』
けれどそれを引き止めるかのように、誰かの掌が私の肩に乗せられた。
*