第10章 美食×谷底×再試験
ほとんど真下に向かって垂直な岩肌にしがみつき、地道に断崖絶壁を登り進める。
しばらくして目の前に現れた頂きに手をついて、足の裏に力を込めて飛び上がる。
軽い音を立てて地面に足をつけると、谷に飛び込むことを断念した受験者達が私に驚きの目を向けた。
そんな視線を感じながら、もこりと膨れ上がったスカートのポケットから斑模様の卵を取り出すと、受験者達が少しざわめく。
「あら、意外と遅かったわね」
メンチさんの声には戻って来るのが遅かったことを馬鹿にした感じは感じられない。
けれど何故か物凄くニヤニヤしている。
何故ニヤニヤしているのか、何となくわかるような気がしなくもないが、わからないと言うことにしておこうと思う。
『……そんなことないと思いますけど?』
その笑みがいいものでないことだけは確かなので、私は無表情を作ってそう答えた。
「へぇ~…♪」
まだ笑っているメンチさんは放っておいて、崖から少し離れたところで卵をころころと掌で弄ぶ。
続々と谷から這い上がって来る受験者達を横目で見るが、その中にまだゴン達の姿はない。
けれど、きっとみんなは戻って来ると信じていた。
しかし、しばらく待ってみても彼等は戻って来ない。
それに焦りと不信感を感じた私は、気がつくと崖の縁に走り寄っていた。
そして、地面に伏せるようにしゃがみ込んで崖下を覗き込む。
『クラピカさん!!』
そんな私の目に映ったのは、すぐそこまで登って来ているクラピカさんとその後に続く3人。
いや、正確には4人だ。
ゴンの手に握られているのはクモワシの卵ではなく、トードーの腕。
何があったのかはわからないけれど、ゴンが彼を手助けしていることだけは確かだった。
しかしゴンのような心根を持たない私には、少し理解が出来なかった。
あの男に助けるだけの価値を見い出せないのだ。
そんな非情とも言える自分の思考を隠していたくて、私はもう目の前まで来ているクラピカさんに自分の右手を差し出した。
ふっと顔を上げたクラピカさんが私の掌に気が付き、一瞬きょとんとしてから微笑んだ。
『ありがとう、ナナ……』
優しく私の掌を握ったクラピカさんの手を引っ張り上げると同時に、私はその場に立ち上がった。
*