第10章 美食×谷底×再試験
メンチさんの口から課題が告げられた後、私達は飛行船に乗せられてここ「マフタツ山」に連れて来られた。
ごつごつとした平らな岩場だけが広がり、その先に待ち構えている断崖絶壁とも言える深い谷。
その光景に周囲の人達からかは悲鳴にも似た言葉が発せられる。
「なっ、なんだこりゃ…」
「一体、下はどうなってるんだ…?」
恐いなら崖下なんて覗かなければいいのに、崖の淵まで行ってわざわざ自分の腰を抜かしている受験者なんかも居る。
その姿に大の大人が情けない…と溜息が漏れてしまう。
私は風が弱まっているうちにと、手首に付けていた髪留めで手早く髪を一つにまとめた。
「安心なさい」
受験者達の合間を縫って崖の前に立ったメンチさんは、徐ろに靴を脱ぎ始め、
「下は、深~い川よ」
誰かの言っていた「下はどうなっているのか」と言う質問に応えるように、楽しそうに笑いながら崖の淵に立つ。
「それじゃお先に!」
一度私達の方に顏を向けたメンチさんは、そのまま何の躊躇いもなく目の前の谷に飛び降りて行った。
「お、おい!」
「ハッ!?」
当然受験者達はその行動に驚き、ざわざわと騒ぎ出す。
「マフタツ山に生息するクモワシ、その卵を獲りに行ったのじゃよ」
それを落ち着かせるようにネテロ会長が説明を挟む。
「クモワシは陸の獣から卵を守るため、谷の間に丈夫な糸を張り、卵を吊るしておく」
『へぇ~、クモワシって頭いいんだね!』
皆が真剣に話を聞いている中で、ゴンがそんなことを言うから少し笑ってしまう。
「そのクモワシの卵をひとつだけ獲り、戻って来る」
ネテロ会長がそう言い終るのとほぼ同時に、メンチさんが崖から姿を現した。
「これでゆでたまごを作るのよ」
崖の淵に手をかけたまま反対の手を振る彼女のその手には、灰色の殻に黒の斑模様の卵がひとつ握られている。
「ちょっと気を付けてね!」
崖から一跳びで地面に着地したメンチさんが谷を振り返りながら言った。
「下の川は流れが速いから、落ちたら数十キロ先の海までノンストップよ」
平然と言ってのけるメンチさんに動揺する人も少なくない。
まぁ、谷に飛び込むなんて普通の人間なら考えられないことだから仕方ないのかもしれない。
だけどこれはハンター試験なのだ。普通の人なんかじゃ生き残れない。
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