第10章 美食×谷底×再試験
飛行船から飛び降りて来た時点で、そのおじいさんが只者でないことはなんとなく察しがつく。
「か、会長…」
だから、メンチさんの呟きによってその人がハンター協会の会長とだとわかっても、さほど驚かなかった。
会長さんの降り立った地面に渦のような跡が出来ているのが見え、そんな高さから飛び降りたのかと思うと背筋がぶるりと震える。
ハンターという人間は、何故こんなにも変な人が多いのだろう。
『何者なんだよ、あのじいさん』
『メンチさんが会長って呼んでたし、きっとハンター協会の会長さんでしょうね』
引き攣った顔で会長さんを見つめているレオリオさんに応えて、事実だけを口にした。
その間にも、会長さんは何もなかったかのように高下駄を鳴らしながらメンチさんに歩み寄って行く。
『あんな高い所から、すごいや!』
『だな。…どんな足の骨してんだ?』
横から聞こえて来るゴンとキルアの会話がおかしくて、思わず笑ってしまいそうになるけれど、そんな雰囲気ではないと堪える。
「ご無沙汰しています、ネテロ会長」
会長さんの目の前で掌に拳をつけて一礼するメンチさんは、さっきとはまるで別人のようだ。
ネテロ会長、と呼ばれたその人はメンチさんに向かって楽にしろとでも言うようににこりと笑った。
受験者達のざわめきを聞きながら、ネテロ会長に視線を向けていると何故か一瞬目が合って、そのまま逸らされる。
なんだろう…、知らないうちに何かしてしまったのだろうか。
「審査委員会会長…」
どこからともなく聞こえて来たサトツさんの声。
それに驚いた受験者達が一斉に声のした方へ顔を向ける。
「ハンター試験の最高責任者です」
言葉を続けながらゆっくりと歩き始めたサトツさんを避ける様に、受験者達が道を開ける。
『へぇ~、偉い人なんだ』
『通りでね…』
ネテロ会長の元へとたどり着いたサトツさんは、紳士のように一礼して顔を上げた。
「まぁ責任者と言っても所詮裏方。こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃ」
そう言って笑うネテロ会長だけど、ハンター協会の会長であると言う事実に変わりはない。
誰でも彼でも就けるわけではない地位に、彼はいるのだ。
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