第10章 美食×谷底×再試験
「そんなことしなくても良かったのに…」
試験官の女がソファに座ったままナナに向かって言った。
『これ以上いろいろと壊されたら、ハンター教会の出費が嵩んじゃうなーと思ったので…』
冗談めかして笑うナナの姿から、誰がさっきの光景と殺気を想像出来るだろう。
「ま、動かずに済んだから楽でいいけどね…」
気怠そうに立ち上がった女は眉を顰めながら255番に近づいて行き、地面にへたり込んでいるそいつを見下ろしながら言った。
「ハンターでもない女の子の殺気にビビってて賞金首ハンター志望だって…?笑わせんなっつーの!」
呆れてものも言えないとでも言うように言葉を続けるそいつの言いたいことは何となくわかる。
けれど、その言葉はこの場に居るほとんどの人間に言えることだろうとも思った。もちろん俺にも。
「どのハンターを目指すとか関係ないのよ。ハンターやってりゃ嫌でも身に付くんだから」
255番から俺達受験者に視線を移した試験官の女は、真剣な表情で続けた。
「いいこと!あたしがこの試験で知りたかったのは、単なる外面の強さじゃない…
あんた達に、未知のものに挑戦する気概があるかどうかだったのよっ!!」
「それにしてもメンチくん…」
静まり返った空気の中聞こえて来たのは、しわがれたじいさんの声。
「合格者ゼロとは、ちと厳しすぎやせんか?」
それと共に響く飛行船のプロペラ音。
「な、なんだっ!?」
俺は周りの声に反応して天井に付けられた窓から空を見上げた。
そこをゆっくりと横切って行く飛行船の機体の側面に描かれているのは、どこか見覚えのあるマーク。
「あ、あれは!ハンター協会のマーク!!」
誰かのその呟きを聞いたゴンが真っ先に外へと走り出し、俺とナナもその後を追って走り出した。
そして、外に飛び出した俺達の目の前に現れたのは、遥か上空の飛行船から躊躇いなく飛び降りる変なじいさんだった。
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