第10章 美食×谷底×再試験
試験がこれで終わりだと言われた時は一瞬イラっと来て、それでもまぁいいかと思っていたけど、そうなるとこいつらともお別れか。
そう思うとなんとなく、少しだけ、残念な気がした。
いい年こいた大人が何やってんだか。
255番が蹴り上げたテーブルが派手な音を立てて倒れ、その上に載っていた皿も否応なく割れるだろうと思っていた。
けれど、皿が割れるような音は一向に聞こえてこない。
そのかわりに騒ぎの中心に人影が一つ増えていることに気付く。
『短気なのはいいですけど、すぐにものに当たるのはどうかと思います』
片手にまずそうな飯を持ったままそう言い放ったのは、さっきまで俺の隣に居たはずのナナだった。
俺にも視認できない程の身のこなしに、やっぱりあいつは只者じゃないのだと再認識させられる。
自分の目の前に突然人が現れたことにのけ反っていた255番は、ナナの言葉が自分に向けられたものであることに気付くとすぐにイラついた表情を見せた。
「なんだとっ!!」
言われた言葉を覚えても居ないのか、拳を振り上げてナナに向かって行く255番。
あんなやつがナナに敵うはずがない。
そう思って、俺はただその光景を見つめていた。
襲い掛かって来る拳をさらりと躱したナナが、流れるように255番の背後に回り込みその首筋にナイフをあてがった直後、ひやりとした寒気が俺の身体を襲う。
散々親父達の殺気に当てられて来た俺でさえ恐いと感じる程の殺気。
それを放っているのは間違いなくナナだ。
なのに、なんとなくそれが信じられないのは、普段のあいつの姿を知っているからだろうか。
ガクガクと震えながら冷や汗を流している255番の首に、赤黒い血が一筋伝う。
それを見た周りの奴等は「殺す気か?」なんて見当違いなことを言っているが、それはないと自信を持って言える。
大方255番が震えているせいで刃先が首を掠めてしまっただけだ。
俺の予想通り、ナナは少ししてあてがっていたナイフを静かに下ろした。
極度の緊張と恐怖から解放された255番が、その場に崩れ落ちるようにして座り込む。
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