第10章 美食×谷底×再試験
『ちょっと待てよ…、受験者の半分が脱落したあの湿原のさらに奥まで行って獲ってきただとぉ!?』
レオリオさんの叫びで、他の受験者達もようやくその事実に気が付き始めたようだった。
『掠り傷ひとつ負わずに、しかも往復1時間足らずで……』
クラピカさんが驚いている傍らで、キルアは面白いものを見つけた子供のように言う。
『結構やるじゃん』
相変わらずの生意気さに思わず苦笑いしつつ、その言葉がメンチさんの耳に入っていないことだけを願った。
「ちょっとは美食ハンターってものを見直した?」
悔し気に表情を歪めながらも何も言わないトードーの目の前で、ゆっくりとソファに座り直して不敵に笑うメンチさん。
そんな何とも言えない空気を知ってか知らずか。
スプーンと取り皿を持ったゴンがメンチさんの横からにゅっと現れる。
『もう少し食べてみなきゃよくわかんないや』
なんて言って、テーブルの上のコケご飯にスプーンを伸ばすゴンの可愛さに思わずふっと笑みがこぼれた。
けれどそのことに気づいたメンチさんが、鬼のような形相でゴンの持っていたスプーンと取り皿を奪い取っていく。
「勝手におかわりしてんじゃないの!!これがどれほど貴重なものかわかってんのっ!?」
メンチさんの持つ皿に頑張って手を伸ばすゴンと、ゴンの魔手から必死にコケご飯を守り抜こうとするメンチさん。
この二人のやり取りが私にとっては微笑ましい光景でも、一部の人間にとってはそうではないことを、私は忘れてしまっていたらしい。
怒りに身を任せたトードーが目の前のテーブルを蹴り上げ、上に載っていたお皿とコケの入った小瓶が宙に放り出される。
それを少し離れた調理台の傍から見ていた私は、すぐにその場から走り出していた。
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