第10章 美食×谷底×再試験
私達の言葉に納得しつつもやはり多少心配なのだろう。
レオリオさんは口をもごもご動かしながら片方の眉を吊り上げて唸っているゴンに、小さめの声で話しかける。
『……不味いんだろ?さっさと吐き出しちまえっ!』
『んーん!』
しかし、不味いと言う言葉を否定するかのように首を横に振って見せるゴン。
ひょっとして私が捕って来た魚みたいに、見かけによらず美味しい代物なのだろうか。
『美味いのか!?』
ゴンの反応にレオリオさんも“コケご飯”の味に興味が湧いたのか笑顔で聞き返す。
『ん~~…、別に…』
しかし、ゴンの最終的な意見はあまりにも曖昧なものだった。
『おいどっちなんだよ!美味いのか不味いのかハッキリしろぃ!!』
それを聞いたレオリオさんが今度は怒り出し、ゴンは困ったような表情で言った。
『だって!!こんな味初めてだもん!不思議な味、としか言いようがないよー…』
それはそれで一度食べてみたいような気もする。
けれど、やはり私のお腹とゴンのお腹では造りが違うと思い直して「一口ちょうだい」の言葉は飲み込むことにした。
「ふっふふーん♪坊やにわからないのも無理ないわ」
ゴンや私達を馬鹿にしている風でもなく、本当に知らなくて当然だとでも言うように丁寧に説明をし始めるメンチさん。
「これはヌメーレ湿原の向こうにあるラウル山中に数頭しか生息していないと言われているオオツノグマのツノゴケよ!」
その表情は今までにないくらい生き生きとしていて、彼女がどれだけ“食”というものを愛しているかが伺える。
この場合、食というより“美食”と言うべきか。
数頭しか生息していない熊を傷つけずに、角に生えるコケだけを採取する技術。
それを簡単にやってのけてしまえるだけの実力と、食材に関する豊富な知識。
“美食”を信条としていても、それがなければ“美食ハンター”ではなくただの“美食家”だ。
「これぞ世界中の美食家が涎を垂らすっていう、幻の珍味ってわけ!」
ゴンの肩に手を置いて得意げな顔をしているメンチさんのすごさが、少しは他の受験者達にも伝わっていればいいのだけれど。
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