第10章 美食×谷底×再試験
「コケだとっ⁉」
メンチさんは、意味が分からないとでも言いたげな表情で叫ぶトードーには目も向けず、悠々と調理台の前まで歩いていく。
「ただのコケじゃないわ」
調理台の前に立ったメンチさんは器用に片手で小瓶の蓋を開け、その中身をまな板の上にばら撒いた。
「これを細かく微塵切りにして……」
台の上にあった包丁を手にした彼女は、その言葉通り目の前の黒い塊を無駄のない包丁捌きで粗く刻んでいく。
「ご飯にかけると最高なのよ」
そしてあっという間に細かくなったそれを、いつの間にか用意されていた炊き立てご飯の上にざらりとかけた。
メンチさんはそのまま使い終わった包丁をまな板に突き立て、トードーの目の前に皿を差し出す。
「さっ!食べてごらんなさい!」
お世辞にも美味しそうとは言えないそれを、トードーが受け取るはずもなく。
「さぁ!」
一旦皿を調理台に置いたメンチさんが、得意げな顔でさらにスプーンを差し出すと、トードーは怒りに震えながら言った。
「コケなんぞ食えるか!人を虚仮にしやがって…、洒落にもならねぇ!!」
洒落にもならないと言いつつ自分で駄洒落にしてしまっていることは言わないでおいた方がいいのだろう。
『じゃぁ!オレが食べるねっ』
いつの間に移動していたのか、さっきまでメンチさんが使っていた調理台の上に飛び乗りそう宣言するゴン。
そしてメンチさんの手からスプーンをひったくると
『いっただきまーす!』
コケご飯を一口掬って躊躇いもせず口に入れた。
『やめとけゴン!腹壊したらどうすんだよっ!?』
笑顔でもぐもぐと口を動かしているゴンに向かってレオリオさんが切羽詰まったように言うから、私は思っていたことをそのまま口に出す。
『ゴンなら食べて大丈夫かくらいわかりそうだし、心配しなくても大丈夫ですよ』
なんて言ったって犬並みの嗅覚を持っていると言っても過言ではない、あのゴンなのだから。
『そーそ、匂いとかで嗅ぎ分けてるって』
キルアも考えていることは私と大体一緒だったようで、そう言ってのける。
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