第10章 美食×谷底×再試験
メンチさんが出て行ってから、そろそろ一時間が経とうかという頃。
途中で待ち疲れてしまったゴンと私は、メンチさんの座っていたソファに座って話をしていた。
『ねぇねぇ、ナナがさっき作ってくれた……かるぱっちょだっけ?』
テーブルの上に置きっぱなしになっている、空になったお皿を指さしながらゴンが言った。
『うん、そうだよ』
メンチさんをただ待っているのも暇だったし、お腹も空いていた。
そして何より、あんなに美味しいと感じた魚を捨ててしまうのは勿体ないと思い、余った切り身で作ってみたのだ。
近くに居たブハラさんにも食べてもらったが、わりと好評だった。
『すっごく美味しかった!強くて料理も上手だなんて、やっぱりナナはすごいや!』
笑顔を浮かべながらこれでもかと褒めてくれるゴンの言葉は嬉しい。
『あはは……ありがと』
けれど、今回作ったカルパッチョは魚の切り身にオリーブオイルと塩、胡椒をかけただけの、所謂“お手軽料理”。
褒められているのに、何となく手放しで喜べないのはそのせいだろう。
「お待たぁ」
そう声がかけられたのは、まるで私達の会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングだった。
出入り口の壁に背を預け、こちらに向かって軽く手を振っているメンチさん。
その姿を見たトードーが鼻で笑いながら口を開く。
「さっきは偉そうに土産がどうだとか言ってたが、手ぶらじゃねぇかよ」
「どこ目ぇつけてんのよ」
メンチさんは薄く笑って自分の懐から何かを引っ張り出す。
「これを見なさい!」
私達に見せ付けるように突き出されたメンチさんの手に握られているのは、小さな瓶。
そしてそれに入れられていたのは、黒くてぼこぼことした謎の塊だった。
ゴンはそれを近くで見ようとメンチさんの所へと走り寄って行き、私もゆっくりとその後を追う。
『なんだぁ、ありゃ…?』
丁度出入り口近くでそれを見ていたレオリオさんの呟きに、
『コケだよ。でも、普通のとは違う』
メンチさんの目の前まで行って瓶の中身をジッと見つめていたゴンが答える。
「あら坊や、よくわかったわね」
ゴンの言葉を聞いていたメンチさんはどことなく嬉しそうな顔をしている。
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