第9章 丸焼き×sushi×失格!?
音を辿っていくと、いつだったかメタボの部類に入るなぁと呑気に考えていたあの男の人がいた。
己の拳を調理台に叩き付けたのか、彼の目の前の調理台だけ大破している。
「納得いかねぇなぁー…とても“はい、そうですか”と帰る気にはならねぇっ!!」
その叫びはこの場に居る全員の心情を代弁していると言ってもいい。
まぁ、調理台を破壊する必要はなかったとも思うけれど。
「駄々っ子は坊やだけにしてよねっ」
メンチさんは面倒臭いとでも言いたげな表情を隠そうともせず、ゴンを指差しながらその男の人に言った。
「何っ!?」
「だからさっ、また来年頑張ればっ?」
メンチさんのこの、明らかに馬鹿にしたようなお気楽な物言いにはたぶん誰もが苛立ちを覚えたはずだ。
普通の人からしてみれば、ハンター試験は楽に通れるものだなんて言えはしない。
“また来年”なんて、あるかどうかもわからないのだ。
「ふざけるなっ!俺が目指しているのはコックでもグルメでもねぇ……ハンターだっ!!
しかもブラックリストハンター志望だぜ!
美食ハンターごときに合否を決められるのは、納得いかねぇって言ってんだよ!」
男の人の軽はずみな言葉に、メンチさんは目の色を変え彼を睨みつける。
「美食ハンターごとき…?」
それに気付いているのかいないのか、男の人はさらにメンチさんを挑発するかのように言葉を続けた。
「あぁそうだ!上手いもん食って踏ん反り返ってるのがハンターだと?笑わせんなっ!」
『アイツは確か…』
『255番、レスラーのトードーだ』
レオリオさんの小さな呟きに、クラピカさんがお決まりのように解説を挟んでくれる。
「そんなもんハンターとは認められねぇ!当然、試験官としてもだ!!
他の奴らだって、すんなりとは引き下がれねぇはずだ」
彼がそこまで言い切るのを待っていたかのように、それまで静観していたブハラさんがのっそりと動き出した。
「待ちな、ブハラ。余計な真似はしないでくれる…?」
静かに怒りを滲ませているようでそうではないメンチさん。
彼女の手に握られている凶器の存在を知っているのは、きっとこの場に居る人間のうち数人だけ。
*