第9章 丸焼き×sushi×失格!?
「っせぇな!文句あんのかっ!?おっ??ぶっ殺すぞてめぇ!!!」
首根っこを掴まれて、がくがくと揺さぶられているハゲ男さんの顔はきっと真っ青だろう。
少し可哀相だと思ったけれど、あそこに割り込む勇気はさすがにない。
ごめんなさい…と心の中で呟いて自分の隣に視線を向けると、さっきまでそこに居たはずのキルアの姿いつの間にかなくなっていた。
『なっ……置いていったなあいつ…』
どこまでも自由人なキルアに呆れつつ、私も自分の調理台に引き返すことにする。
そろそろ私も自分の第二作に取り掛からなければ、メンチさんのお腹がいっぱいになってしまう。
現に何人かの受験者はハゲ男さんと同じような料理を皿に載せて、未だに怒鳴り散らしているメンチさんのもとに向かっている。
ゴンとキルアも既にニギリズシを作り始めていた。
キルアにさっきのことで一言言ってやろうかとも思ったけれど、今回はやめておこう。
年相応に、二人並んで楽しそうにしている姿を見ていたらなんだかどうでもよくなってしまった。
自分の使っていたまな板の上に、手にしていた皿を置いてふと考える。
まず、自分の使っている魚の味がわからなければ美味しさも何もないのではないかと。
けれど見た目があれだった魚が、果たして美味しいのだろうか。
それどころか、そんなものをメンチさんに食べさせようとしていた自分はよく考えると最低だ。
私は意を決して自分で作ったそれを手に取り、三つの角のうちの一つに齧り付いた。
口を黙々と動かしながら、やってくるだろう淡水魚独特の生臭さに怯えていた私は口の中に広がるその味に目を見開いた。
『ぇ……、美味しい』
生臭さとは程遠い淡白な味わいと、滑らかな舌触りがすごく美味しい。
私は塩以外何も手を加えていないから、あの魚自体が美味しかったのだ。
魚も見かけには寄らないらしい。
「あぁ~も~…、怒鳴ったらますます腹減ったわ。さ、次の挑戦者いらっしゃい!」
やっとハゲ男さんを解放したのか、メンチさんがそう一声かけた瞬間、この時を待っていたとばかりに受験者達が走り出した。
「もう!アイツのせいで皆に作り方がバレちゃったじゃないのっっ!!こうなったら…、味だけで審査するしかないわね」
メンチさんのその言葉を聞いた私は嫌な予感しかしていなかった。
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