第9章 丸焼き×sushi×失格!?
目を閉じて、口に入れたスシをゆっくりと咀嚼するメンチさんを受験者全員固唾を飲んで見守っていた。
自信満々で踏ん反り返っているつるっぱげの青年(少々長ったらしいのでここからはハゲ男さんと呼ばせていただく)に、誰もが一人目の合格者が出ると信じていただろう。
「………ダメね、おいしくないわ。やり直し」
けれど口の中のものを飲み込んで目を開けた彼女は、きっぱりとそう言い切りハゲ男さんに皿を突き返したのだった。
それが気に入らなかったのか、彼は皿を受け取らないままメンチさんに詰め寄っていく。
「な、なんだと!?ニギリズシってのは飯を一口サイズの長方形に握ってその上に山葵と魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろうがっ!!」
彼の持ち前の大きな声で、スシの基本的な作り方は今ここに居るほとんどの受験者の耳に入ってしまっただろう。
ということは、審査は益々厳しいものになるはず。
その事実に思わず溜息が漏れた。
「こんなもん誰が作ったって味に大差ねぇーべぇっ!!?」
やっと自分で何を口走っていたかに気づいたハゲ男さんは、自分の口を手で覆いながら周りを見渡していたが、時すでに遅しというやつだ。
受験者達はさっきの情報をもとに調理を開始してしまっている。
私はまだ調理台に戻っていなかった。だからこそ見てしまったのだ。
「……お手軽ッ??……こんなもん?味に大差ないぃ~!!?」
ゆらりと立ち上がり、ハゲ男さんの背後に立つメンチさんの姿を。
その殺気とも言えるような気配に気づいたハゲ男さんが後ろに振り返ると、メンチさんは彼の胸倉を掴んで口を開いた。
「ざけんなてめぇ!!スシをまともに握れるようになんには10年修行が必要だって言われてんだあっ!!!!」
その大声に気付いた受験者達も、なんだなんだと二人の方に顔を向ける。
「貴様ら素人がいくら形だけ真似たって、天と地ほど味は違うんだよぶぅぁがぁーっっ!!(※バカ)」
その顔は般若か鬼か、どこかのマフィアのお偉いさんのようだ。
さっきの困ったように話すメンチさんを思い出して、二重人格ってこういう人のことを言うんだろうかと思った。
「っじゃじゃあそんなもんテスト科目にすんなよっ!!」
そんな彼女を目の前にしているハゲ男さんの声は、恐怖のせいか少し震えていた。
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