第9章 丸焼き×sushi×失格!?
『はァ!?そんなんじゃねぇしっ!!』
メンチさんの言葉を理解したキルアが慌てて否定するので、私もそれに同意するように何度も頷く。
するとメンチさんは一つ舌打ちをして、苛立ちを隠そうともせずに会場にいる私達を睨み付けた。
「あたしはまだ1つも試食すら出来てないのよ!?あたしを餓死させる気っ!!?」
チンピラのような顔で言う彼女に、もとの彼女の姿は欠片も見えない。
受験者達が揃って唖然とする中、近くの調理台に付いていたクラピカさんだけが一人ブツブツと呟きながら作業を進めているのが見えた。
黙々と手を動かし完成を迎えた彼は包丁を放り投げ、不敵に微笑む。
周りの受験者達が飛んで来た包丁に逃げ惑い、クラピカさんに罵声を浴びせようとしているのはこの際無視だ。
『これだあぁーっ!!』
声高らかにクラピカさんが皿を差し出し、それを見たメンチさんの額に遠目でもわかるくらいの青筋が入ったのが見えた。
「アンタも最初の奴と全く同レベルっ!!」
またもやひっくり返された皿の上から放り出され、生きたままの魚とご飯を一緒に握ったものが宙を舞う。
調理台に戻ろうとこちらに振り向いた時のクラピカさんは、顔面蒼白でいつもの綺麗な顔立ちは見る影もなかった。
簡単に言ってしまうなら、途方もないアホ面とも言える。
この時のクラピカの顔を忘れることは絶対にないような気がする。
「ムキ――ッ!もーどいつもこいつもっ!!観察力や注意力以前にセンスがなぁーいっ!!やんなっちゃぁうっ!!!」
お腹の空き過ぎのせいでメンチさんがだんだん壊れていく中、
「ふっふっふ…、そろそろ俺の出番かな…」
そんなありがちな台詞と共に怒鳴り散らすメンチさんの目の前に立ったのは、試験中に何度か見かけたことのあるつるっぱげの青年。
自信ありげな彼の皿を一目見ようと周りを受験者達が囲み始め、私もその輪の中に身体を滑り込ませる。
「どうでい、これがスシでいっ!」
メンチさんの前に差し出された皿の上には、長方形の握り飯の上に魚の切り身を乗せただけの料理があった。
彼女の満足そうに微笑んでいるところを見ると、どうやらこれがスシらしい。
「ふぅ~ん、ようやくそれらしいのが出て来たわね。どれ……」
メンチさんはスシを素手で掴み取り、口の中に放り込む。
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