第9章 丸焼き×sushi×失格!?
『それに、お皿ひっくり返されてたキルアくんには言われたくないでーす!』
少しだけべっと舌を出してそっぽを向くと、彼は案の定その挑発に乗ってきた。
『なっ!?そんなんナナのだってひっくり返されるかもしれねぇじゃん!』
確かにそうかもしれない。けれど少なくともキルアくんのフレンチ料理もどきよりかはマシだと思う。
根拠は全くと言っていい程ないのだけど。
『てかそろそろくん付やめろよ!』
この子は今、なんと言ったのだろう。
唐突なそれに驚いて思わず視線を彼の方に戻すと、どこか恥ずかしそうに目を逸らすキルアくんが居た。
今まで意識することはなかったけれど、確かに私は彼を『キルアくん』と呼んでいる。
それのどこがいけないのかわからないけれど、キルアくんはお気に召さないらしい。
ゴンを呼び捨てにするのは、小さい頃からそうだったから問題ない。
けれどそれ以降、歳の近い男の子と関わって来なかった私にとっては何だかむず痒い感じがする。
『なっ、なんで急に!?』
出来れば遠慮しておきたいその提案から、どうにか逃げられないかと思って咄嗟に出た言葉だった。
キルアくんも負けじとこちらを睨みつけて来るけれど、頬が若干赤い為に恐さは全く感じない。
『キルア、くんとか……呼ばれ慣れないからなんかむず痒いんだよっ!』
君のそれとほぼ同じ理由で、私は今苦しんでいるのだとはっきり伝えたい。
けれど、こちらをじっと見つめる彼の猫のような蒼い目にたじろいだ時点で私の負けは確定していたのだと思う。
『わかった…』
彼を言いくるめる言葉を探してぱくぱくと開閉していた私の口から出て来たのは、その一言だけだった。
わかりにくくはあるが、目を輝かせて喜ぶキルアくんに苦笑を漏らしてその名前を一度だけ呼んでみる。
『それじゃあこれからは……キルア、って呼ぶね…』
やはりどこか気恥しさの残るそれに、頬が少し熱を持つのがわかる。
あぁ、って呟いてまた目を逸らすキルアくんはどこか満足気で、やっぱりあの言葉は、彼の本心じゃないのたろうと何となく思った。
「ちょっとアンタ達っ!!何勝手に青春おっぱじめてんのよ!?」
メンチさんの言葉が私達二人を指すものであると気付くのには、少しだけ時間がいった。
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