第9章 丸焼き×sushi×失格!?
自分の発想力の無さに溜息が出るけれど、他に何か思い付くわけでもないから一度これで持って行ってみよう。
そこで何も味付けをしていないことを思い出し、申し訳程度に塩を降っておいた。
そのまま皿を持って列の一番後ろに並ぶと、メンチさんの目の前にキルアくんが立っているのが見えた。
キルアくんがどんなスシを作ったのかすごく気になる所ではあるが、もう並んでしまったからには列を離れるわけにはいかない。
あの子はなんでも卒なくこなせそうな感じがするから、生きた魚をご飯の中に入れて握る、なんてことにはなっていないと思う。
周りを見渡すと、私と同じようなものを持っている人、握り飯に魚の切り身を海苔のように巻き付けたものを持っている人と様々だった。
果たして、この中に正確なニギリズシがあるのだろうか。
『小海老のカクテル、鱒のマリネの芥子ソース合えとライス..』
受験者達の声で溢れているこの場所で、まだ成熟し切っていないその声はよく響いた。
『スシのブルゴーニュ風』
フレンチ料理の様な名前のそれは、私の居る場所からでは見えないけれどこれだけはわかった。
キルアくんの持って行った料理はスシじゃない。
「気色悪いわぁ゛――っ!!!」
キルアくんのスシもメンチさんの手によってひっくり返され、宙を舞ったそれらは床にぶちまけられるーーー
ことはなく、口を開けて待ち構えていたブハラさんのお腹におさまった。
彼の満足そうな顔からしてどうやら味は良かったらしい。
「次よ、次!」
不服そうに『ちぇっ』と呟いたキルアくんは、頭の後ろで腕を組み調理台へと戻ろうとしていた。
(その一部始終を見たヒソカがどこかへと消えてしまったのは、また別の話...)
その視線がふいにこちらに向けられ、目が合った瞬間彼はぱっと表情を明るくさせてこちらに走り寄って来た。
『ナナはどんなの作ったんだよ?』
その言葉に見ればわかるでしょと言う風に皿を突き出して見せる。
『……なんつーかお前、真面目だよな』
キルアくんが皿の上のものを見て馬鹿にしたような顔するものだから、私もほぼ条件反射のような形で声を荒らげる。
『他に思いつかなかったんだから仕方ないでしょ!?』
一瞬大人気ないかもと思いもしたが、一度開いた私の口は止まらなかった。
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