第9章 丸焼き×sushi×失格!?
『ナナっ!?』
どうしてここにとか、何でお前がそんなこと言うんだとか、言いたいことはいろいろあるだろう。
けれど、私がレオリオさんに言いたいのは一つだけだ。
『レオリオさん……自分の作ったそれ、食べたいと思いますか?』
私が諭すように尋ねると、レオリオさんは床に転がる自分の持って来たものにちらりと目を向ける。
そして、すっと青褪めた顔を左右にぶるぶると震わせた。
そう、それが答えなのだ。
白いご飯の中で動かなくなった魚に一人手を合わせようとしたその時。
「アハハハハ!」
誰かの高らかな笑い声が会場に響き渡った。
その声を発する女性……メンチさんはお腹を抱え、目尻に薄っすらと浮かんだ雫を拭いながら私を見つめていた。
「はぁ~ぁ……面白いわね、アンタ」
さっきの私のどこら辺にウケる要素があったのかは分からないけれど、笑っていただけたなら光栄だ。
なんて思っていたら、深い溜息を吐いた彼女はこれまたいきなりの発言をする。
「あたしと少しお話しましょ?」
拒否権はなさそうな言い方だが、何か嫌な感じがするという訳でもない。
私が素直に頷くと、メンチさんはよろしいとでも言うように小さく微笑む。
しかしそれも束の間。
少しの苛立ちを含んだ表情に戻ったメンチさんは、周りの受験者達に視線を向けて口を開いた。
「まぁそれは置いといて……アンタ達いいこと!?形は大事よ!!」
この言葉から考えられるのは、ニギリズシの形はある程度決まっているということ。
「ニギリズシの形を成してないものは味見の対象にもならないわ!」
まぁ、それがわかったところで肝心の形がわからなければ意味もないのだけど…。
受験者達からレオリオさんへと視線を戻したメンチさんは、彼にあっちへ行けとでも言うように手を動かして見せる。
「さっ、アンタはさっさと戻りな」
それを見たレオリオさんは、小さく舌打ちをしたかと思えばあっさりと自分の調理台へと戻って行った。
それを見送ったメンチさんが、視線をこちらに戻してにっこりと微笑む。
「ここで話すのもなんだし、外に出ましょうか」
腰を上げて建物から出て行くメンチさんのあとを、私は無言で付いていく。
そして彼女は入口から出てすぐの壁に背中を預け、その真正面で足を止めた私を見つめた。
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