第9章 丸焼き×sushi×失格!?
「そして最大のヒント!スシはスシでも“ニギリズシ”しか認めないわよ~」
ヒントと言われても、もともとの“スシ”を知らなければ“ニギリ”の意味もわからない。
握り飯……のようなものなのかな。
「それじゃあスタートよ!あたしが満腹になったら試験は終了。その間に何個作って来てもいいわよ」
そこまで言い終えたメンチさんは、最初に座っていたソファに音を立てて腰を下ろし不敵に微笑んだ。
「ニギリズシ……」「ニギリズシ…」
受験者達が一様にそうを呟いているのを聞きながら、ゴンとキルアくんと三人並んで調理台の前に立つ。
『ライスだけで作るのかなぁー?』
しゃもじでご飯を少し掬って私達に見せるゴン。
キルアくんはそれに見向きもせずに包丁を手に取り、そのまま投げて一回転させる。
包丁の扱い方がおかしい気しかしないが声には出さないで置こう。
『道具とか見ると、他にも何か使いそうだぜ?』
『ご飯だけで作るなら包丁はいらないものね』
私もまな板の上から包丁を取って丁寧に研がれた刃を見つめた。
『魚ぁ――っ!?ここは森ん中だぜっ!?』『声がでかい!』
レオリオさんの大きな声と、クラピカさんの怒鳴り声。
二人の居るであろう方向に視線を向けると、周りの受験者達とも目が合う。
レオリオさんの発した「魚」という言葉に反応したのが、私達だけであるはずがない。
そのことに気付いていないのか。
『魚だったら川とか池にもいるだろうにっ!!…………っ』
叫んだ直後、我に返ったクラピカさんは「やってしまった」という顔で周りの人間を見回した。
「「「「「魚ぁぁ―――っ!!!」」」」」
その顔で確信を得たであろう受験者達が、大声を上げながら我先にと走り出した。
一瞬で私達だけが取り残され、呆けていたクラピカさんとレオリオさんもお互いを罵りながら他の受験者達を追うようにして出て行く。
『『『あはは、はは……』』』
無意識のうちに溢していた渇いた笑いが、ゴンとキルアくんのものと重なる。
一部始終を見ていた私達三人は、メンチさんに憐みの目をもらいながら静かになった建物を後にした。
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