第9章 丸焼き×sushi×失格!?
次の瞬間、地面がぐらぐらと揺れ出した。
地震かとも思ったけれど、どうやら違うらしい。
突然のことに慌て始める受験者達の姿に、逆に私は自分が冷静になっていくのを感じていた。
視界の端にこちらに向かって来る真っ黒な塊が映る。
唖然と立ち尽くす人、顔を青くして逃げ惑う人、武器を構えて立ち向かおうとする人。
いろいろな表情を見せる受験者の群れに、黒い塊が突っ込んでいるのが見えた。
受験者達が次々と薙ぎ倒されたり吹っ飛ばされたりしているのを横目に、私は自分の頭上にある木の枝に目をやり足元に力を入れて飛んだ。
枝を掴んでいる両腕を軸に身体を半回転させ、枝の上に降り立つ。
眼下に視線を向けると、大勢人がいたはずの地面は黒い豚で埋め尽くされていた。
さっきまで一緒にいたゴン達の姿もそこにはなかった。
(かなりの人数倒れちゃってるけど、ゴン達なら大丈夫だよね…)
自分に言い聞かせるように心の中でそう呟いたその時。
視界の端に、私の立っている木に向かって真っ直ぐ突進して来る豚の姿が映った。
血走った目と一瞬目が合ったけれど、恐怖なんてものは感じない。
『バカだなぁ……あの豚…』
少しの同情を胸に、足元を襲うであろう衝撃に備える。
『まぁ、手間が省けて助かるんだけど』
小さく呟いた直後足元が揺れ、木の幹に頭をぶつけた豚がゆっくりと地面に倒れていく。
それを見て、漸くグレイトスタンプの弱点が額だったことを思い出す。
私は今さら思い出してもあんまり意味無いんだけどな……と溜息を吐き、豚を焼く為に木の枝から飛び下りた。
「うん、うまいっ!」
美味しそうな匂いを放つ豚の丸焼き達は、骨となり山のように積み重なっていく。
「これもおいしいぃ~っ❤」
一匹食べ終えるごとに一言挟んでいたブハラさんがの手が止まったのは、暫くしてのことだった。
口の周りを一舐めして最初に見た時よりも膨れ上がった自分のお腹を叩くブハラさん。
「あぁ~食った食った、もーお腹いっぱい!!」
彼が満面の笑みで満足そうに言うと、メンチさんがいつの間にか用意されていたドラを思い切り叩いて宣言した。
「終了~~~~~っ!豚の丸焼き71頭完食ぅ~」
その数字を聞くと少し吐き気がしたが、そんなものに構っている暇はないのだ。
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