第2章 雨×オーラ×強い光
「おいっ!!」
誰かの大きな声で目が覚めた私は、ぼんやりとした頭で重たい瞼を持ち上げた。
目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がる男の人の顔。
『……きゃあぁ!!』
驚きで一瞬固まっていた私が悲鳴を上げて身体を起こすと、男の人は耳を塞いであたしから顔を遠ざけた。
「うるせぇなぁ~…」
未だに耳を塞いだままのその人は、部屋の中心で燃えている火を挟んで私の向かいに腰を下ろす。
私も体勢を立て直してきちんと床に座ると、少し汚れた駱駝色の分厚い布が滑り落ちた。
私の着ていたピンクのワンピースは、泥が染み付いてはいるがある程度乾いている。
泥だらけだった足も綺麗に拭われており、真っ白な包帯が巻かれていた。
ここは目の前に居る男の人の家なんだと思う。
あまりじろじろと部屋を見回すのも悪い気がしてちらちらと視線を向ける程度にしていたが、その生活感のなさに驚いてしまった。
壁際に置かれた本のぎっしり詰まった本棚、所々茶色く汚れた窓、天井の隅にぶら下がった蜘蛛の巣。少しだけカビ臭い匂いもした。
最後に私の目に映ったのは、男の人の横に置かれている大きく膨れ上がった鞄。
もしかしたらこの人は長い間家を空けていたのかもしれない。そう考えるとこの家の汚さにも納得がいく。
「あーぁ、魘されてたから起こしてやったのに…」
頭の後ろで腕を組みながら言うその人の言葉は身に覚えのないものだ。
(……魘されてた?)
そっと頬に触れてみると、確かに幾つか涙の跡があった。
けれど肝心な夢の内容はいくら考えても思い出せず、今はとても無駄なことのように思えた。
『あの、これ……ありがとうございます』
私が今一番に伝えなくてはならないのは、彼に対するお礼だと思ったのだ。
「ん?あぁ、別に礼なんていらねぇよ」
そう言って笑顔を浮かべる彼の姿にほっとして、私の頬も少し緩む。
「まぁ、とりあえずその話は置いとこうぜ…?」
一瞬で表情を変えたその人は、揺らぎの無い瞳で私を見つめる。
「俺の名はニール……、単刀直入に聞かせてもらう。
お前はなんであんな場所に倒れていたんだ?」
怖いくらいに真剣なその表情が、私の何かを変えてくれる気がしていた。
*