第8章 他人×奇術師×実は犬?
サトツさんの一次試験合格と言う言葉を聞いて、少しの安堵と溜まりに溜まっていたであろう疲労を吐き出すように溜息を吐いた。
何故かゴンのそれとタイミングが被り、2人で顔を見合わせて笑う。
『やったな』
その時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえて胸が跳ねた。
『キルアっ!』
ゴンの嬉しそうな声とは対照的に、声の主の姿を見つけた私は自分の表情が強張っていくのがわかった。
どんな顔をすればいいのか、わからなかったのだ。
『どんなマジックを使ったんだっ?絶対、もう戻って来れないと思ったぜ?』
ゴンの肩に自分の腕を乗せて悪戯めいた笑みを浮かべるキルアくんは、たぶんさっきのことなんて気にしていないのだろう。
けれど、私の心の中は心配してくれた彼の手を振り払ったことへの罪悪感でいっぱいだった。
キルアくんから目を逸らそうとしていたその時、不意に彼の目が私をの姿を捉えた。
『ぁ、キル…』
さっきはごめんと、ただ謝りたいのに言葉が上手く出てこない。
ゴンの肩から手を退けてこちらに向かって来るキルアくんの顔が何故か見ていられなくて、視線を地面に落とす。
最後に見えたキルアくんの顔は無表情で、そこからはなんの感情も読み取れなかった。
もしかしたら怒っているかもしれない。
足元に散らばる石を見つめていた私の視界に映り込んだのは、誰かの靴。
それが誰のものかなんて簡単に予想がついて、小さく息を呑んだ。
『んな顔してんじゃねぇよ…』
そんな呟きが聞こえたかと思うと、私の頭の上に何か乗せられたのがわかって驚く。
どこか温かいそれがキルアくんの掌だと気付くのにあまり時間は掛からなかった。
私の髪を少し乱暴にかき混ぜるその手付きが思いの外優しくて、胸の奥が甘く柔らかく脈打つのがわかる。
ゴンくんと手を繋いだ時とどこか違うその感覚に、私は内心首を傾げていた。
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