第8章 他人×奇術師×実は犬?
辺りに視線をさ迷わせていると、待ち望んでいた2人の姿を受験者達の影に見つける。
『ゴン、クラピカさん!』
受験者達の間を抜けてこちらに駆け寄って来る2人に、どうしてか少し涙が出そうになる。
でもこんなことで泣いてなんていられないし、どうせなら笑顔でお疲れ様を言いたい。
気絶してるレオリオさんを見てほっと息を吐くゴンと目が合い、私はとびっきり笑顔で言った。
『お疲れ様っ…、2人とも無事で良かった…』
私の言葉に笑い返してくれる2人の姿に、ようやく一次試験が終わったのだと言う実感を得られた気がした。
『うっ、…うぅ、どうなってんだっ?』
小さく呻き声を上げて目を覚ましたレオリオさんの近くに、すかさずクラピカさんがしゃがみ込む。
そして彼は、状況を上手く把握出来ていないであろうレオリオさんの全身を上から下まで眺めて言った。
『うん、腕の傷以外は無事のようだ』
クラピカさんはすごく真面目な顔で言うけれど、レオリオさんの顔は誰が見てもわかるくらいに腫れ上がっている。
腕に出来た切り傷の方がどう考えても軽傷だ。
『っ、いててっ…顔を見ろ、顔っ!!』
クラピカさんは自分の顔を指差し怒っているレオリオさんの顔をじっと見つめて、呟いた。
『いつも通りだが…?』
本気でそう思っているなら、クラピカさんは一度病院に行くべきかもしれない。
なんて失礼なことを考えていると、レオリオさんは訳がわからないとでも言いたいのか半ば叫ぶように言った。
『どこがだよっ!くそぉ~、どうなってんだよ!!』
その言葉である可能性に行き着いた私は、恐る恐る彼に尋ねる。
『覚えて、ないんですか?』
こちらに目を向けたレオリオさんは、私と目が合うとすぐに視線をさ迷わせた。
『ぇ、あ、え~っと……確か湿原に入ったとこは覚えてんだけどなぁ…』
首を捻って記憶を辿ろうとしているレオリオさんの姿を見た私達3人は、一瞬顔を見合わせて互いに小さく頷きあったのだった。
そこで一旦話を終わらせた私達は、サトツさんや受験者達が集まり始めている建物の近くへと向かった。
「では改めまして、おめでとうございます」
「今ここにいらっしゃる方々は全員、一次試験合格です。二次試験での皆さんの健闘をお祈りします」
それだけを告げてサトツさんはどこかへ行ってしまった。
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