第8章 他人×奇術師×実は犬?
ゆっくりと離れていく温もりを追うように視線を上げると、目の前にいるキルアくんと目が合った。
その瞳が有無を言わせないとでも言うように私の顔をじっと見つめてくるから。
私はぎこちない笑みを浮かべ、さっき彼が言ってくれた言葉に応えた。
するとキルアくんは満足したのか、小さく笑ってゴンの元へと戻って行った。
一体なんだったのだろう。
そっと自分の頭に触れると、さっきのことを余計に思い出して心臓の動きが早まる。
私はさっきの何とも言えないやり取りをゴンにも見られていたのだと思うと、恥ずかしくて仕方なかった。
『で、お前はどうやってここまで来たんだ?』
口をぽかんと開いて立ち尽くしているゴンに、何事も無かったかのように話しかける彼は本当に何者なんだろう。
我に帰ったゴンが『実は……』とここに辿り着いた経緯を話し始めた。
私達は別々にこの場所を目指していたから、ゴンがどうやってここまで来れたのかはわからない。
わからないにしろいろいろと想像することは出来た。
けれど、そんな想像を軽々と飛び越えていくようなゴンの言葉に、私はしばらくの間放心していた。
『『レオリオの匂いを辿ったぁ――っ!?』』
キルアくんと私の声が重なり、ゴンは苦笑いしながら頷いた。
『お前やっぱ相当変わってるなぁ~…』
『変わってるって言葉ですませちゃうの…!?』
呆れたように呟くキルアくんに、私は無意識のうちにツッコんでいた。
ゴンの行動は変わってるなんて言葉ではとても説明出来ない。
寧ろ私は、本気でゴンが犬なのではないかと疑ってしまいそうだ。
『へへっ、そうかなぁ~』
照れたように後ろ頭を掻くゴンに私は思わず口を開いていた。
『いや、ゴンそこ照れるとこじゃないよっ!?』
私はもちろん、キルアくんだって馬鹿にこそすれど褒めてはいないはず。
私はこんなにツッコミをするキャラではなかったはずなのだけど……と頭を悩ませていたその時、低く重い音がどこからか響いてきた。
今までそれぞれ話をしていた受験者達が一斉に静まり返る。
辺りを警戒しながら視線を巡らせていると、何故か建物に取り付けられた時計に目が行った。
そして、正午を示す時計の真下にある重そうな扉が、ゆっくりと開いて行くのが見えた。
一次試験合格者、148名。
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