第8章 他人×奇術師×実は犬?
どこか見覚えのあるそれは逆再生の様に飛んで来た方向へと戻っていく。
それを目で追うと、そこには息を切らしたゴンの姿があった。
「やるねぇ、ボウヤ★」
気持ちの悪い顔でさっきよりも笑み濃くしたヒソカに、ゴンの表情が強張る。
「釣竿か、おもしろい武器だねぇ♠ちょっと見せてくれるかなぁ…♦」
そんなことを言いながらゆっくりとゴンに近づいて行くヒソカ。
ゴンに逃げてと伝えたかったけれど、ヒソカの念で動きを止められている私にそれは叶わなかった。
何も出来ない自分が情けなくて、動かないはずの拳をきつく握りしめる。
「この、僕に…♥」
ヒソカはゴンとの距離を徐々に詰めていくけれど、ゴンは一向に逃げようとせず唖然と立ち尽くしていた。
いや、正確には動けないのかもしれない。
それこそ蛇に睨まれた蛙のように、捕えられるその時をじっと待つことしか出来ないのだろう。
『てめぇの相手は、このオレだぁっ!!』
私の背後から飛び出して行ったレオリオさんが、ヒソカ目掛けて拳を振り下ろすのが見えた。
けれど次の瞬間、殴られていたのはヒソカではなかった。
一瞬面倒臭そうな顔をしたヒソカの放った拳は、そのままレオリオさんの頬にめり込み重く鈍い音が響く。
レオリオさんの身体は宙を舞い、やがて地面に叩き付けられてしまった。
ゴンはその一瞬のうちに、もう一度ヒソカに攻撃しようと思ったのだろう。
素早くヒソカの後ろに回り込んだゴンが、ヒソカに向かって釣竿を振り下ろす。
けれどヒソカは既にそこには居らず、代わりにゴンの首を掴んで笑っているヒソカと苦しげに顔を歪めるゴンの姿があった。
「仲間を助けに来たのかい?……いい子だねぇ♦」
あんな不気味な笑みで見据えられたら、誰だって震え上がってしまうだろう。
けれどゴンは、震えながらもその目をヒソカから逸らしはしなかった。
「……うん、合格だ♥」
じっとゴンを見つめていたヒソカだったが、そんな呟きの直後その手を緩めてゴンを地面に下ろした。
どこか満足気に笑ったヒソカはゆっくりとゴンの傍を離れていく。
ヒソカの行動には私も驚いたけれど、一番びっくりしているのは死にそうな顔をしていたゴン自身だろう。
その証拠に、ゴンは少しの間呆けていた。
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